Research Abstract |
本研究では,大きな三次非線形光学物性を持つ物質の設計指針を構築することを目指し,開殻一重項性を有する一次元多核遷移金属-金属結合系の第二超分極率(γ)を系の開殻性の観点から検討している.昨年度は,遷移金属-金属結合系の開殻性とγの基本的な性質を明らかにするために種々の二核遷移金属系を調査し,その結果,系のγに対してdσ電子が主な寄与をしていること,また,その寄与の大きさはdσ軌道の開殻性が中程度の場合に最大化されることを明らかにし,軌道対称性と非線形光学物性との相関を解明した.また,d原子軌道の広がりと非線形光学物性との相関を見出し,それに基づき大きな三次非線形光学物性を実現するための分子設計指針を提案した.今年度は更に大きな非線形光学物性の発現を目指して,二核を超える一次元多核遷移金属-金属結合系を検討した.このような系ではUCCSD(T)法のような高精度計算が適用できないため,まず始めにUCCSD(T)法の結果を再現可能な低コスト計算法を探索し,その結果,range separating parameterが0.8のLC-UBLYP法が種々の遷移金属二核系においてUCCSD(T)法によるYを再現することを見出した.そこで,この計算手法を用いてCrのジカチオンから構成される一重項の一次元金属鎖[Cr(II)_<2n>(n=1-4)]を取り扱い,系の開殻一重項性とγを検討したところ,鎖長の増加に対してγは著しく増大することが判明し,開殻一重項性を持つ一次元多核遷移金属鎖が非線形光学物質として有望であることが示唆された.また,このモデル系では二核系の場合と同様にdσ電子が系の三次非線形光学物性に大きく寄与する特異な系であることも明らかとなった.さらに,開殻一重項一次元金属鎖に結合交替を導入したところ,γが大きく増減することがわかり,結合交替による三次非線形光学物性の制御可能性も示唆された.前年度,および本年度の結果から,開殻一重項性を有する一次元多核遷移金属-金属結合系における三次非線形光学物性制御のための分子設計指針として,遷移金属の周期,族,電荷,また,金属鎖の鎖長と結合交替が提案された.
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