2010 Fiscal Year Annual Research Report
高歪み化合物テトラヘドランを用いた新規σ-π共役系分子の創成
Project/Area Number |
10J01592
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
稲垣 佑亮 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 有機化学 / 高歪み化合物 / ケイ素 / テトラヘドラン / シクロブタジエン / 原子価異性化 / 光反応 / 光増感電子移動反応 |
Research Abstract |
有機分子の骨格は炭素σ結合によって形成され、電子物性はその構造に基づいた共役π電子系の設計によって決まる。テトラヘドランは高度に歪んだσ結合を有しており、光や熱といった外部刺激によりシクロブタジエンへの原子価異性化反応が誘起されることが知られている。この異性化において、高歪みσ結合とπ共役系との相互変換が起こっており、この仕組みを理解することは化合物の物性を理解する上で非常に重要である。本研究では様々なπ共役系置換基をテトラヘドランに導入し、それらの化合物の光反応、熱反応、酸化還元反応を行い原子価異性化反応のメカニズムを解明することである。本年度は、パーフルオロアリール基を導入したテトラヘドランの光反応、9,10-ジシアンアントラセン(DCA)を用いた光誘起電子移動反応を行い、生成したシクロブタジエン誘導体について構造解析、電子スペクトル測定、量子化学計算による考察を行った。 ペンタフルオロフェニルテトラヘドラン及びパーフルオロベンゼンのパラ位に2つのテトラヘドラニル基を導入した化合物に300nm以上の光を照射すると対応するシクロブタジエン誘導体へ定量的に異性化することを明らかとした。また、DCAを用いた光誘起電子移動反応を行った結果、異性化反応の進行が観測されたことから酸化反応もまた異性化に重要な外部刺激であることが示唆された。ペンタフルオロフェニルシクロブタジエンの構造をX線結晶構造解析により決定し、シクロブタジエンの4員環は長方形構造であることを明らかとした。電子スペクトル測定の結果、分子内に2つのシクロブタジエン部位を有する化合物は、2つのシクロブタジエン部位間に相互作用が存在することが示唆され、量子化学計算もこの結果を支持している。これらの結果はテトラヘドランからシクロブタジエンへの異性化機構に関する重要な知見を与えたことに加え、反芳香族分子シクロブタジエンについて新たな知見を与えた。
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