2010 Fiscal Year Annual Research Report
電子移動を担う遷移金属結合タンパク質の計算科学的研究
Project/Area Number |
10J02555
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
姜 志〓 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ハイブリッドQM/MM計算 / 電子状態 / 電子伝達系 / シトクロム酸化酵素 / 分子動力学 / Generalized Hybrid Orbital / Wannier Function Center / プロトン輸送 |
Research Abstract |
本研究の目的は遷移金属結合タンパク質における電子/プロトン移動の機構を計算科学的な手法で理論的に解明することである。巨大なタンパク質に対しても高精度な理論解析を実現するには、量子力学(QM)理論と古典(MM)理論とをジョイントさせたハイブリッドQM/MM計算が有効であり、これは現在最も強力な解析法のひとつである。本研究は、我々のQM/MM計算システムの改良とその応用とを進める。本年度はまず、次の3つの解析法の実装またはその準備を進めた。第一に、電子構造自体の時間発展を追跡する「時間発展電子密度汎関数法(TDDFT)」を、単独のQM計算としてタンパク質に対してテストした。第二に、QM・MM領域の境界をより高精度に取り扱うための「Generalized Hybrid Orbital (GHO)法」の導入を、その専門家であるM.Field博士ら(フランス)との共同によって進めた。第3に、複雑な生体内の遷移金属イオン結合サイトの電子構造を解析するために「Wannier Function Center (WFC)」のプログラムを開発した。またQM/MM計算の応用としては、細胞呼吸において重要なシトクロム酸化酵素(CcO)のCu_Aサイトについて、その電子構造を解析した。これまでの実験では、同じアミノ酸残基からなるCu_Aサイトであっても、生物種によってそのMet残基の酸化還元電位に与える影響が異なり、矛盾した結果がみられた。本年度は前述のQM/MM計算とCu_Aサイトの立体構造モデリングとを組合せることにより、実験結果における先の矛盾を解決した。さらにCcOのプロトン輸送経路に対してQM/MM分子動力学計算を実行し、その解析を進めた。この結果は、CcOにおけるこれまでの機構(QM単独計算により、実験結果と矛盾している)とは異なり、真の描像を明らかにするものと期待される。
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