2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J02580
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西本 篤史 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 沈木生物群集 / 遷移 / 木材穿孔生物 / 蝕害耐性 / X線CTスキャナ / 内部構造解析 / 心・辺材 / 深海 |
Research Abstract |
浅海域における陸上植物片の被食遷移について、その全容が明らかになりつつある。穿孔生物に対する耐性の乏しい「スギ」では、海洋流入後直ちにニオガイ上科二枚貝類による被食が進むが、穿孔基質の減少に伴い、主要な木材穿孔生物が、ニオガイ上科二枚貝類から等脚月キクイムシ科に変化することが確認された。一方で、豊富な樹種成分と、木本の中でも特に硬い性質を持つ「ウバメガシ」は、実験当初、木材穿孔生物に対する耐性を示した。 しかし、約1年が経過したころから、フナクイムシ科が、約2年が経過したころから、キクイムシ科が観られるようになった。このことから、木片の海中設置に伴い、陸上基質である木片の性質も変化しながら、群集も併せて遷移していくことが明らかになった。 南西諸島海溝にて採取した木片サンプルを、X線CTスキャナ撮影に供している。X線CTスキャナを用いることで、定量的に木材内部の被食空間を調べることが出来る。ニオガイ上科二枚貝類による穿孔活動は樹種によって異なる。しかし、ひとつの木片でも心材と辺材で全く異なる性質を持ち、蝕害耐性が異なる可能性がある。そこで本研究では、X線CTスキャナを用いて撮影した丸太状スギ木片の断層画像を、心材・辺材部に分けて解析した。結果、木口面辺材部への定着密度が、木口面心材部のそれに比べて有意に高かった。但し、被食の進んだ水深275mから回収したスギでは、木口面から離れた木片の深部において、心材部も40%を超す高い割合で被食されていた。これは、木口面辺材部に定着した個体が、穿孔の内部伸長に伴い、心材部へも穿孔していることを示唆する。このことから、スギの心材におけるニオガイ上科二枚貝類に対する阻害は、定着阻害であって、伸長阻害ではないことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
浅海実験系では、木材穿孔生物に着目したデータ解析を行い、浅海における木片の被食遷移過程を明らかにしつつある。加えて、非穿孔生物を扱った群集解析のための準備も進んでおり、貝類相については、種レベルでの同定作業が順調に進んでいる。深海実験系では、震災の影響で航海の実施時期が危ぶまれたが、1月に実施された。回収したサンプルについては、既にX線CTスキャナ撮影を終了した。以上の事から、おおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、ソーティングならびに同定作業に非常に多くの時間を要している。共同研究者の協力を仰ぎながら、同定能力を磨くことで、作業時間の短縮を目指している。また深海実験系については、画像解析をすべてマニュアル操作にて行っていることから、膨大な時間を要していると共に、解析作業に恣意的な要素が生じている。そのため、現在、マニュアル操作を極力排除した新たな解析作業マニュアルを作成中である。精度の点でマニュアル作業に劣る可能性を否定できないが、誰がやっても同じ結果を得られるマニュアル作成することで、データの信頼性向上を目指している。
|