Research Abstract |
平成22年度は,汎世界的に分布する本属菌であるエリマキツチグリGeastrum triplex Jungh.について,分類学的再検討を行うことを目的として,形態観察と分子系統解析を実施した。 供試標本として,日本(福島,茨城,栃木,群馬,埼玉,東京,三重,兵庫),タイ,ロシア,スウェーデン,オランダ,メキシコ,アメリカ,ハワイ,ニュージーランド,オーストラリアの各地より採集された本種の子実体乾燥標本65点を用いた。さらに,日本及び世界各地から入手した,145点の関連するヒメツチグリ属菌の子実体乾燥標本を比較のために用いた。DNA抽出には,担子胞子を含む基本体の小塊を用い,PCR法により複数の遺伝子領域(核およびミトコンドリア)を増幅して,塩基配列を決定した。系統解析は最節約法およびベイズ法によった。また,形態観察では,子実体および根状菌糸束を,光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いて観察した。 以上の結果,エリマキツチグリは多系統であり,分類学的に重要と考えられてきた子実体の形質(内皮の襟巻状構造)は,系統を反映していないことが明らかとなった。一方,担子胞子の大きさと表面構造は,系統を反映する形質である可能性が示された。エリマキツチグリは腐生性の菌であるにもかかわらず,北半球と南半球の間で,地理的に明瞭に区別されるクレードが認められた。また,ハワイのエリマキツチグリはオセアニア起源ではなく,北半球から分散して定着した可能性が示唆された。これらのことから,エリマキツチグリは従来,単一種として捉えられてきたが,これらは複数の生物学的種からなるコンプレックス(複合種)を形成していることが示された。これらの結果は日本菌学会第54回大会(東京)および第9回国際菌学会議(英国)等において発表した。
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