2010 Fiscal Year Annual Research Report
有限温度下での多体エンタングルメントの解析および関連する物理現象の探索・解析
Project/Area Number |
10J02812
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中田 芳史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多体エンタングルメント / ハミルトニアン動力学 / ランダム状態 |
Research Abstract |
今年度は、ランダム状態と呼ばれる純粋状態の集合をエンタングルメントの観点から解析した。ランダム状態は、ヒルベルト空間からランダムに選出した純粋状態の集合で定義され、平均として巨大なエンタングルメントを持つため、今年度の研究は特殊なエンタングルメントを有する物理系の解析に向けた第一歩となっている。 ランダム状態は、そのランダム性からヒルベルト空間の全ての状態が持つ普遍的な性質を調べるために用いることが可能で、量子統計力学および量子情報処理への応用が多く知られている。しかし、その一方で、ランダム状態の生成は量子コンピュータを用いても簡単ではないことが示されており、ランダム状態が物理系において実際に存在するかどうかは非自明である。今年度はこの点に着目し、1.時間に依存しないハミルトニアンの時間発展によるランダム状態の実現可能性、2.対称性を有するヒルベルト空間でのランダム状態の性質、の二点をエンタングルメントの観点から研究した。ハミルトニアン動力学によるランダム状態の実現可能性を示すことは、ランダム状態を応用した量子統計力学の基礎付けに更なる妥当性を与えるとともに、ランダム状態を使用した量子情報処理の実現を容易にするため、有意義である。また、対称性がランダム状態のエンタングルメントに与える影響を調べることで、対称性がある物理系においてランダム状態が実現するための必要条件を求めることが可能となる。 今年度の成果として、1に関しては、1次元イジング模型において、多体相互作用が高次の摂動として存在する場合は、ランダム状態と同程度のエンタングルメントを生成することができることを示した。つまり、摂動係数がゼロでなければランダム状態は実現可能であることが判明した。2に関しては、並進対称性を持った系のランダム状態の記述法を確立し、現在、そのエンタングルメント特性に関して解析中である。 また、平成23年度への繰り越し分を用いて、多体相互作用が高次の摂動として存在する1次元イジング模型におけるランダム状態の実現可能性をより詳細に解析し、ランダム状態と同程度のエンタングルメントを生成するためにはどの程度の多体相互作用が必要であるかを定量的に明らかにした。
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