2010 Fiscal Year Annual Research Report
ニホンジカにおける局地適応の検出と固有性の評価:屋久島個体群に注目して
Project/Area Number |
10J02966
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
寺田 千里 北海道大学, 大学院・環境科学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ニホンジカ / 局地適応 / 保全単位 / 中手骨 / 動物園 / 進化生態学 |
Research Abstract |
これまでの報告者らの研究で、南日本の島嶼に生息するニホンジカの足の長さは、島ごとに異なり、屋久島に生息するシカの足の長さは、他の島個体群に比べて顕著に短いことが分かってきた。この現象は、島の環境の違いによって足の長さの遺伝形質が分化した局地適応の結果ではないかと仮説を立てている。本研究の目的はこの仮説を検証し、九州及び周辺島喚に生息するニホンジカについて、足の長さの進化と維持の機構を理解することである。この仮説が正しければ、足の長さは1)環境の影響による変異ではなく遺伝形質の分化を伴う変異があり、2)遺伝的浮動などの中立的な変異によるものではなく自然選択によって変異していると予測される。本年度はこれらの予測を検証した。1)に関して、動物園で生まれ育った屋久島由来の個体と、屋久島産の野外個体の形質を比較した。その結果、屋久島由来の動物園個体の足の長さは、屋久島産の野外個体群と有意な違いが見られなかった。このことから、足の長さの変異は、遺伝形質の分化を伴った変異である可能性が高いと考えられた。2)に関して、野外個体群間の表現形質の分化程度と中立遺伝マーカーの分化程度を比較することで、南日本の島嶼に生息するシカ個体群の形質変異は、自然選択と遺伝的浮動のどちらの効果が強いかを検証した。その結果、相対的な足の長さの個体群間の分化程度は、中立マーカーの示す分化程度よりも大きかった。このことから足の長さは方向性選択がかかっている部位である、つまり局地適応していることが示唆された。これらの研究によって、これまで行われてこなかった大型哺乳類の適応進化の理解に対する貢献、そして、島のシカ個体群の保全学的価値を評価するという応用への貢献が期待される。
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Research Products
(5 results)