Research Abstract |
本研究の目的はカーボンナノチューブを用いた高感度温度センシングシステムを構築し,単一生体分子の熱測定を行うことである.23年度の実施計画は計測システムの構築とその評価,および褐色脂肪細胞を用いた実験である.振動型微小熱センサを,マイクロ流体チップを用いて局所的に真空下に置くことで,液中における熱損失と振動減衰を防ぐことができる.実際にデバイスを作製し,振動型熱センサを支持するマイクロ流体チップ内部の壁の厚さと伝熱効率の関係を評価した.壁の厚さが10μmの時,最大の効率55%を得た.さらにマイクロ流路に水を流入し,同様の評価を行ったところ,効率は48%であった.液中ではセンサ周辺に96%の熱が逃げることが理論的に明らかになっており,それと比較すると大幅に改善されている.さらに,熱センサのQ値を比較したところ,マイクロ流路に水を流入する前後で4000と変化がなかった.これは,水のリークがなく,感度も維持できることを示している.アラン偏差により振動型熱センサの周波数安定性を評価したところ,0.015 ppmであり,S/N比を基に熱分解能を計算すると5.2 pJとなった.このデバイスを用いて,単一の褐色脂肪細胞の熱計測を行った.マイクロ流路中にあるサンプルステージに細胞を一つ付着させ,薬剤刺激の有無による熱計測を行った.薬剤刺激前のバッファ液のみでも,'数分に一度パルスに近い発熱を観察した.薬剤刺激を行うと,バルクでの計測と同様に,緩やかに温度が上昇し,発熱が20分程度続いた.前者の反応はこれまで報告されたことがなく,不活性化した細胞ではいずれの発熱現象が確認できなかったことからも,何かしらの生体由来の反応と推測できるが,原因の断定には至っていない.以上より,単一細胞熱計測用デバイスを作製し,実際に単一細胞を用いた実験により,バルク計測と同様の結果はもちろん,バルク計測では報告されていない現象の観察に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コンセプトの変更があったにも関わらず,今年度の実施計画の根幹をなす褐色脂肪細胞の熱計測に成功した点および作製したデバイスの評価実験を通して課題が明らかになり,さらなる改善の余地と,その解決方法を見出すことができた点.
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Strategy for Future Research Activity |
単一細胞に比べ,単一生体分子の発熱量は大幅に低いことは容易に予想される.現在の問題はドリフト等のノイズと,細胞の発熱自体の周囲の水への拡散が問題となっている.前者に関して,現在は熱センサの振動検出にレーザードップラー振動計を用いているが,静電容量を用いた検出方法を用いることで解決を試みる.後者に関して,マイクロ流路に水があるために生じる問題なので,サンプルを液体に包みこみ,空気による断熱を行って,熱損失を軽減する対策を講じる.
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