Research Abstract |
過剰施肥の回避および肥培管理コストの抑制のための合理的な節肥技術や,砂漠化進行地域の畑作圃場における塩類集積の緩和技術が求められており,これらの技術の確立のためには,根の物質吸収機能に対する環境作用の定量的評価が必須である.本年度では,まず、水耕液のイオン濃度に対するイオン吸収速度の依存性を酵素反応速度式(ミカエリス・メンテン式)に基づいて解析している.その結果,イオン吸収速度の濃度依存性はミカエリス・メンテン式で表現でき,根域環境によって,ミカエリス・メンテン式を構成する2つのパラメータ,すなわち最大吸収速度とミカエリス定数が大きく変化することを確認している.一方,導管液中のイオン濃度の変化は小さかったことから,根のイオン吸収に対する環境作用には,吸水の変動も関与していることも示した.根の吸水は,日射強度,湿度,風速などの気象条件によって変化する葉の蒸散に連動して引き起こされ,イオンチャンネルなどの膜輸送タンパク質が存在する根の細胞膜へのイオンのマスフローを駆動している.したがって,各イオン種と各イオン種固有の膜輸送タンパク質の邂逅頻度は,水耕液のイオン濃度だけではなく,マスフローによるイオンの輸送量,すなわち水耕液のイオン濃度と吸水(蒸散)速度の積に支配されると考え,ミカエリス・メンテン式に基づく濃度依存型イオン吸収モデルとは異なる蒸散統合型イオン吸収モデルを新たに提案した.この蒸散統合型イオン吸収モデルによって,根のイオン吸収に対する環境作用を定量的に評価できることを実証するとともに,養液栽培における節肥(過剰施肥の回避)技術および乾燥地の塩類集積条件下での根のイオン吸収の評価への応用の可能性を示唆した.
|