2011 Fiscal Year Annual Research Report
ポリヤコフ・ループ効果を取り入れた格子QCD強結合展開に基づく相図の解明
Project/Area Number |
10J03314
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 嵩士 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 格子QCD / 格子フェルミオン / Staggered-Wilsonフェルミオン / ダブラー / QCDの相構造 / Aoki相 / 強結合極限 / ホッピングパラメータ展開 |
Research Abstract |
「格子量子色力学(格子QCD)における新しい格子フェルミオンの有用性」について研究しました。 非摂動的解析の強力な方法である格子QCDは,時空を離散化することによってモンテカルロ計算による経路積分の実行が可能になります.しかし,格子上のフェルミオンにはカイラル対称性などQCDに不可欠な性質を課すと余分な自由度が出現する問題があります.この問題を解決する方法が現在までいくつか提案されていますが、現状の格子フェルミオンは計算コストが高いか現実のQCDを実現できないという問題を抱えていました。 近年、格子QCD数値計算を大幅に高速化しかつ現実のQCDを実現できるフェルミオンが提唱されました。この格子フェルミオンを格子QCPに応用するためには数値計算上の性質を調べ,場合によっては適切な改良を加える必要もあります。その指標となり得るのがAoki相(パリティ対称性が自発的に破れた相)の有無とその性質です。 私は、この新しい格子フェルミオンにおいて、パリティ対称性が自発的に破れた相が存在し、カイラル極限を取ることができるかどうかを調べました。具体的には、強結合極限における相構造とパイオン質量を定量的に計算しました。検証手法においては、二つの方法(ホッピングパラメータ展開、有効ポテンシャル)を用いて調べました。 具体的結果として、 (1)特定のクォーク質量領域にパリティ対称性が自発的に破れた相が存在する。 (2)パイオン質量がその相境界で無質量南部-Goldstoneボソンになるので、カイラル極限を定義することができる。 これらの結果から、この新しい格子フェルミオンは実際に格子QCDの数値シミュレーションにおいて用いることができるということを強く示唆していることがわかります。それゆえ、これらの結果は格子QCDの低コスト数値計算に向けて非常に重要な結果です。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の手法である格子QCDの強結合展開を用いて有限温度・密度の相図の研究を行うだけでなく、新たに低コスト数値シミュレーションを実現する新しい格子フェルミオンの性質(相構造)を調べた。この研究結果からそのフェルミオンの有用性を示すことに成功し、低コスト数値シミュレーションの実現へ向け貢献した。この研究結果は基礎物理学研究所における研究会でポスター賞受賞し、高い評価を受けている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により「格子QCDにおける新しいフェルミオンの有用性」を示唆することができましたが、実際にこのフェルミオンによる数値シミュレーションを行うためには、さらに詳しくこのフェルミオンの性質を調べ、有用性を確立していく必要があります。具体的には以下二つの方向性を挙げることができます。 (1)ホッピングパラメータ展開や有効ポテンシャルにおける近似を改善する計算 (2)平均場近似を超えた効果、有限結合定数効果を含む解析 これらを調べることで、新しい格子フェルミオンの実現に向けた基礎付けを行います。
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