2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10J03439
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
國枝 正 東北大学, 大学院・生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 細胞内輸送 / 細胞壁 / シロイヌナズナ / 種子形成 / 種皮 / ムシレージ / 花茎 |
Research Abstract |
移動能力をもたない植物は,生育環境に適応するための防御構造として細胞壁を発達させてきた.細胞壁形成の詳細な分子機構を明らかにすることは,植物の生存戦略を理解する上で欠かせない.本研究は,モデル植物であるシロイヌナズナの種子に特徴的な細胞壁構造"ムシレージ"に着目し,細胞壁構成成分が細胞外へ分泌されるための細胞内輸送機構の解明を目的としている. 昨年度の研究において,種皮からのムシレージ放出のみならず,花茎の物理的強度維持を制御する細胞内輸送関連因子を同定した.遺伝子欠損変異体の表現型解析から,この輸送因子とペクチンの性質変化との関係が示唆されていた.本年度は,輸送因子が標的とする細胞壁構成成分を明らかにするため,変異体花茎における細胞壁構成成分の組織分布および蓄積量を解析した. 植物細胞壁の基本骨格であるセルロースは,野生型と輸送変異体のどちらも組織全体に亘って存在していた.しかし,カルコフロー染色の強度低下から,輸送変異体でのセルロースの減少が示唆された.花茎の強度維持にはペクチンの脱メチル化が必要とされるが,免疫組織化学染色では特筆すべき結果は得られなかった.すなわち,輸送因子はペクチンの性質変化のうち,少なくとも脱メチル化機構には関与していないといえる.一方,セルロースやペクチンなどの各細胞壁構成多糖について生化学的な定量解析を行ったところ,各々の個体あたりの含有量は,野生型と比較して輸送変異体では明らかに減少していた.しかし,単位乾燥重量当たりでは,大きな違いはなく,構成多糖の組成そのものには変化がないことが判明した.つまり,個体体積に占める細胞壁量の割合が,輸送変異体では低下していると考えられる. 本年度に得たこれらの結果は,注目した輸送因子が,特定というよりは,全体的な細胞壁構成成分輸送に関与していることを示唆しており,細胞壁形成の中心的役割を担っていることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,細胞壁構成成分の細胞内輸送における分子機構の解明を目的としている.現在までに,分子機構の中核を担うであろう輸送因子を同定できた.この輸送因子の機能解析に向けた実験マテリアルが整いつつあり,それらを使用することで今後の研究進展が期待できるため.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析により,細胞壁形成を制御する輸送因子を同定し,その遺伝子欠損変異体での細胞壁成分蓄積異常を明らかにした.今後の解析では,細胞内における分子の動きに着目し,同定した輸送因子の「細胞壁成分」あるいは「細胞壁合成酵素」の輸送への実際の関与を検証する.具体的な方法の一例としては,セルロースなどの細胞壁合成酵素を緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識し,細胞内での分子の動態を可視化することが挙げられる.このGFP融合タンパク質の細胞内外における局在や移動速度などから,細胞壁形成を支える細胞内輸送制御機構の解明に向けた手掛かりを得る.
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Research Products
(2 results)