2011 Fiscal Year Annual Research Report
衛星計測・排出量推計・化学物質輸送モデルを統合した次世代型大気環境研究手法の確立
Project/Area Number |
10J03510
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
板橋 秀一 九州大学, 応用力学研究所, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 大気汚染物質 / 化学物質輸送モデル / 衛星計測 / 排出量推計 / 東アジア / HDDM |
Research Abstract |
東アジアの近年の急速な経済発展に伴い人為起源大気汚染物質の排出量は増加し,例えば2007年春季に我が国で広域的な光化学スモッグ注意報が発令され社会的に大きな影響を与えた.大気中の種々の化学物質の挙動や影響を理解するには,発生・輸送・反応・沈着過程を包括的に表現できる化学物質輸送モデルを用いた研究が1つの大きな有効手段である. しかし,モデルには依然として多くの不確実性があり,モデルに与える排出量データの不確実性が最も大きい.モデルによる計算値と観測値との整合性を高める画期的な手法としてデータ同化がある.データ同化では数値モデルと観測データとを融合させ,より高い精度の数値シミュレーションが可能となり,排出量の逆推定などにも応用できる.従来は独立に行われてきた排出量推計とモデルシミュレーション解析,衛星による計測結果の解析をデータ同化で統合し,より精度の高い次世代の大気環境研究手法を確立することが本研究の目的である. 2年目の本年度は,まず現状の排出量インベントリに基づいたモデル結果の検証のため,長期のトレンド解析に着手した.データ同化へ拘束条件として利用する衛星観測データの解析を進め,NASAのTerra衛星に搭載されたMODISエアロゾルセンサーとモデルを用いて,2000年~2010年のエアロゾル光学的厚さ(大気微粒子の鉛直積算量)の経年変化と中国における人為起源汚染物質排出量との関連について論文を発表した.また,感度解析手法であるDDMをモデルに適用し,その研究成果を発表している.まず,SO_2を前駆気体とする硫酸塩粒子の発生源寄与解析を行い,論文としてまとめ投稿をした.続いて,非線形性を伴ったO_3についてもDDMをHDDM(Higher-order DDM)に拡張することで,前駆気体に対する非線形性も考慮できるように改良をし,その成果をまとめているところである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
MODISエアロゾルセンサーを用いたエアロゾル光学的厚さの経年変化の論文が3月に出版され,それと平行して進めてきたDDMを用いた感度解析手法の東アジア域への応用の研究を予定よりも早くまとまることができて論文として投稿出来た.DDMをHDDMへ拡張し,O_3などの非線形反応の含む系に適用するモデル研究も順調にすすんでおり,Green関数法と組み合わせた新しいデータ同化方法の展開も期待でき,当初の計画以上の進展がある.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,今年度に導入することのできた非線形の化学反応系を伴うO_3にも適用可能な感度解析手法HDDMを,感度を最適化する手法であるGreen関数最適法と組み合わせ,O_3にも適用可能な次世代型の化学物質輸送モデルを構築する.また,衛星計測結果を拘束条件とし排出量データの逆推定にも着手し,次世代型の大気環境研究手法を確立することを目標とする.
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Research Products
(9 results)