2010 Fiscal Year Annual Research Report
がん細胞の上皮間葉転換における腫瘍特異的アデノウイルス製剤の影響の検討
Project/Area Number |
10J03792
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
橋本 悠里 岡山大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 上皮間葉転換 / テロメラーゼ / アデノウイルス |
Research Abstract |
上皮間葉転換(EMT)は上皮細胞が上皮系性質を失い、間葉系細胞の特性を獲得する現象であり、転移能や薬剤抵抗性など癌細胞の悪性形質に関与していることが明らかになってきた。すなわち、癌細胞におけるEMT誘導を阻害する薬剤の開発が必要である。現在、改変アデノウイルスを用いた抗癌治療の開発が進められているが、アデノウイルスとEMTプログラムの関係性についてはほとんど調べられていない。本研究では、テロメラーゼ依存性腫瘍融解アデノウイルス(OBP-301)を使用して、アデノウイルス製剤が癌細胞のEMTに与える影響を明らかにすることを目的とする。本年度は、TGF-βによりEMTを誘導した癌細胞におけるOBP-301の影響について解析を行った。ヒト肺癌A549細胞にTGF-βを処理すると、紡錘形の形態、上皮系マーカーであるE-カドヘリンの発現低下、間葉系マーカーであるビメンチンの発現上昇、運動能の亢進といった間葉系細胞様に変化しEMTが誘導された。EMTを誘導したA549細胞にOBP-301を処理したところ、E-カドヘリンの発現上昇、ビメンチンおよびN-カドヘリンの発現低下、さらにはEMT誘導転写因子であるSnailの発現低下が認められた。また、OBP-301処理により、TGF-β誘導性の細胞運動能および浸潤能の亢進が抑制された。さらに、EMT誘導A549細胞に対する抗腫瘍効果について検討したところ、OBP-301はEMT誘導細胞にも細胞傷害性を有していたが、化学療法剤ではEMT誘導癌細胞において抗腫瘍活性の低下が認められた。これらの結果より、テロメラーゼ特異的腫瘍融解アデノウイルスはTGF-β誘導性のEMTや細胞浸潤を阻害し、EMTによって悪性形質を獲得した癌細胞に対しても有用である可能性が示唆された。今後は、OBP-301がTGF-β誘導性EMTを阻害する機序について検討する予定である。
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