Research Abstract |
アルツハイマー病(AD)の原因物質であるアミロイドβ(Aβ)は凝集することで毒性を示す.近年,準安定な凝集中間体であるオリゴマーが毒性本体である可能性が指摘されている.42残基のAβ42は,40残基のAβ40より高い細胞毒性とオリゴマー形成能を示す,この違いは,C末端領域における分子内βシート構造の有無に起因すると考えられることから,Aβ42のC末端領域はオリゴマー形成に重要な役割を担っている可能性が高い.本研究は,Aβ42のC末端領域の役割を明確にするとともに,毒性本体の一つとされるAβ42ダイマーのC末端領域の立体構造を解析し,その知見を基に新規凝集阻害剤を開発することを目的としている. C末端領域において,35番目のメチオニン残基(M35)の硫黄原子のラジカル化が凝集ならびに細胞毒性発現に重要であることから,M35をノルロイシン,バリン,ノルバリンにそれぞれ置換したAβ42変異体を合成し,細胞毒性及びラジカル生成能を調べた.その結果,M35V-Aβ42のみが野生型Aβ42よりも強い細胞毒性及びラジカル生成能を示したことから,M35V-Aβ42では,野生型Aβ42において生じる硫黄ラジカルカチオンに比べて安定な三級炭素ラジカルが生じる可能性が考えられる.近年,M35V-Aβ42はAβ42に比べて細胞膜への結合能が増大することが報告されていることから,今後,細胞内レドックス状態について解析を行う. 一方,C末端領域のターン構造を模倣した短鎖ペプチド(CKKK-G38P-Aβ32-42)を用いてC末端領域特異的抗体の作製を試みたが,ペプチドの水への溶解性が低いことから,クローンの取得には至らなかった.そこで,新たな凝集阻害剤の標的としてAβ42ダイマーの立体構造に着目し,化学的に安定なAβ42ダイマーの合成を試みた.前年度までの2,6-diaminopimericacidを分子リンカーとする方法では,立体障害や疎水性の高さからダイマーの収率が極めて低かったため,水系での選択的な反応が期待されるHuisgen反応を利用して,28番目のリジン残基(K28)間での架橋反応を計画した.現在までに,リジン側鎖にアジド基を持つAβ42と,Lys-28をプロパルギルグリシンに置換したAβ42をそれぞれ合成した. さらに,Aβ42の凝集を阻害する天然フラボノイド類の一つであるタキシフォリンは,塩基性アミノ酸残基(R5,K16,or K28)とシッフ塩基を形成することにより作用していることを明らかにした.本結果は,タキシフォリンの作用部位がC末端領域ではないことを示唆するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
M35V-Aβ42が野生型Aβ42に比べて顕著に強い細胞毒性ならびにラジカル産生能を示すことを明らかにした.本結果は,Met-35がAβ42の毒性発現に必須であるという従来の説に反するものであり,Aβ42の細胞毒性発現機構を考察する上で示唆に富むデータである.一方,前年度までに立体障害や高い疎水性などの要因により難航していたAβ42ダイマーの合成について,数種の新しい合成法を検討している.さらに,Aβ42の凝集を阻害する天然フラボノイドのタキシフォリンは,C末端領域には作用していないことを明らかにした.以上より,本研究は当初の計画以上に進展したと判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
野生型Aβ42より強い細胞毒性及びラジカル生成能を示したM35V-Aβ42を用いて,細胞内レドックス状態の詳細な解析を行う.また,前年度までにC末端領域特異的抗体の作製を目的としていたが,抗原ペプチドの水への溶解性が低いため,クローン取得は困難であった.そこで,新たな凝集阻害剤の標的としてAβ42ダイマーの立体構造に着目し,ダイマーのC末端領域の構造解析を試みる.具体的には,選択性の高いHuisgen反応を用いて架橋位置を変えたダイマーを数種合成し,NMR等の機器分析を駆使してダイマーの構造を解析するとともに,細胞毒性やラジカル産生能,LTPへの影響を検証し,最も毒性の高いダイマーを同定する.
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