Research Abstract |
本研究は,プレート沈み込み地震発生帯における地震時の断層物質の化学反応と断層滑り挙動の解明を目的としている.まず,統合国際深海掘削計画(IODP)第316次研究航海によって採取された南海トラフ地震発生帯での高角逆断層(スプレー断層)の試料の分析に向け,その陸上アナログである房総半島,新第三系付加地質体に発達する断層を対象とした.野外地質調査を行い採取した断層岩および母岩について,顕微鏡観察とICP質量分析装置を用いた微量元素測定などの化学分析を行った.顕微鏡観察からは,断層岩において流れ構造が確認され,高速滑りの痕跡は見られたものの,熔融の痕跡である急冷組織や非晶質の存在は確認できなかった.また,化学分析からは断層岩においてLi,Rb,Csの顕著な減少とSr,Baの増加が検出された.この元素移動は地震時に摩擦発熱によって加熱された高温流体と断層岩との相互作用の結果であると考えられ(Ishikawa et al.,2008;Nature geoscience),この反応を満たす温度を見積もった結果,350℃以上の高温が必要であることがわかった.以上の結果をもとに,地震時にこの断層で引き起こされた滑りの速度と滑り距離,断層の温度についての数値解析を行った結果,摩擦係数や上載圧などのパラメータに幅を与えても,この断層が350℃~1100℃の温度に達するためには,高速(~1m/s)で数メートルの滑りが必要であることが示唆された.研究対象とした房総半島,新第三系付加地質体は最大埋没深度が2~3kmと見積もられているため,本研究で得られたような高速,大変位の滑りが生じた場合には,津波発生の大きな要因になると考えられる.今後,付加体浅部断層(例えば巨大分岐断層,プレート境界断層の浅部)の津波に対する寄与を調べる上で,その滑り挙動を検討する本研究は非常に大きな意義がある.
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