Research Abstract |
本研究は,プレート沈み込み地震発生帯における地震時の断層物質の化学反応と断層滑り挙動の解明を目的としている.本年度は,主として統合国際深海掘削計画(IODP)第316次研究航海によって採取された南海トラフ地震発生帯での高角逆断層(スプレー断層),前縁プレート境界断層のビトリナイト反射率分析結果をもとに,断層すべりに伴うビトリナイト熟成の数値解析法の確立と,それらの断層滑りパラメータの推定をおこなった.先に行われた断層近傍のビトリナイト反射率分析の結果からは,断層を中心とした反射率増加のピークが得られ,断層運動に伴う摩擦発熱によって,このようなビトリナイトの熟成が行われたと解釈されていた.そこで,この地震時の摩擦発熱とビトリナイトの熟成について,発熱と熱拡散,ビトリナイト熟成の化学反応速度論及び熟成,反射率変換関数とを組み合わせた数値モデルを作成した.このモデルを用い,測定された反射率を満足する断層すべりを逆解放的に算出した結果,これらの断層では,速度が数cm/s,変位が数十mというすべりが過去に引き起こされていたことが示唆された.また同時に,これらの滑りによる津波のシミュレーションについても実施し,高角逆断層におけるすべりについては,通常の南海トラフ地震発生帯で引き起こされるものと同等な大きさの津波が引き起こされることを確認した.これらの結果は,過去,南海トラフ地震発生帯浅部において,ゆっくりとした大規模な断層すべりが生じ,それらが津波を引き起こしたことを示唆している.このような,付加体浅部における大規模な断層すべりの痕跡は,昨年度に実施した陸上付加体に関する研究結果とも調和的であり,プレート沈み込み地震発生帯における,一般的な事象である可能性もある.現在,これらの研究成果は,Journal of Geophysical Research誌に投稿中である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,研究成果の公表を進めるとともに,より精度の高い断層パラメータ解析のため,断層が高速で大変位する際の力学的性質を明らかにする予定である.具体的には,回転剪断式高速摩擦試験機を用いた高速剪断時の摩擦係数の測定と,動的な断層近傍の圧力状態推定の透水係数・貯留係数等の水理特性の情報を,透水試験機を用いた測定によって得る予定である.また,付加体浅部のみならず,付加体深部,地震発生帯本体についても同様の解析を行うための予備調査も行う予定である.
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