2011 Fiscal Year Annual Research Report
攪拌解繊による植物資源からの均一セルロースナノファイバー製造
Project/Area Number |
10J04452
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上谷 幸治郎 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | セルロースナノファイバー / 長さ / 表面ポリマー / コロイド / 界面化学 / ゼータ電位 / 繊維の膨潤 / コーヒーリング |
Research Abstract |
ナノセルロースを材料中で用いる時、繊維表面の状態や表面間相互作用がその機能に対し極めて重要な効果を果たす。高速ブレンダーやグラインダーを用いて製造した木材パルプ由来のNCは、損傷や劣化が少なくヘミセルロースを15 wt%程度含む。さらにセルロースのI型結晶回折を示すことから、ヘミセルロースは主にミクロフィブリル表面に存在すると考えられる。そのため、木材由来のNC表面の性状は実質ヘミセルロースの性状であるが、NC上での基礎的な解析はほとんど為されていなかった。申請者は、このNC表面に着目し、NC上でのヘミセルロースの構造をゼータ電位の時間依存性という手法で解析した。その結果、NC表面の非晶ヘミセルロースが、異なる膨潤挙動を示すことが示唆された。そこでNCの水和挙動をDSCによって測定したところ、置換溶媒の誘電率が低下するほど多くの中間水(束縛水)量が検出された。NC表面からより遠くの自由水が弱くトラップされたことが確認され、ポリマーの膨潤が起こっていることが証明された。さらに表面化学的算出(Poisson-Boltzmann式を解くこと)で、幅20 nmの乾燥NCが、水中に再分散すると最大26 nmまで膨潤することがわかった。さらにNC表面に化学処理によって官能基をグラフトした場合でも、あるいは酸加水分解により得られるナノウィスカーにおいても、表面の非晶のポリマーが膨潤した。一次元のフィブリルのナノ膨潤が具体的に明らかになったことで、高次構造化した材料の動的な基礎付けが得られた。NCの材料応用に際して、予期せぬダイナミクスの防止/制御において重要な基礎的発見が為された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度の主な研究成果であるナノセルロース表面ポリマーのナノ膨潤は、申請者が用いた「ゼータ電位の時間依存性」という手段により表面解析を深める事で初めて見出だされた現象である。ゼータ電位の測定自体は汎用的であり、ナノセルロースに関しても目新しいものではないが、その時間依存性という切り口をナノセルロースに適用し、詳細に調査した例は無く、またこの手法を用いる事を当初計画してはいなかった。一方で、表面がナノ膨潤するという結果は、ナノセルロースの認識・材料への理解に対して極めて重要な基礎知見であり、水懸濁液に対するDSC測定など過去に例がない測定を数珠つなぎに行うことで、新しい側面の解析を深められた。これらの結果より、計画以上に研究が進展していることは明白である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の意味深さに関して、単なるパラメータを変えて予測の範囲内で結果を予定するのではなく、未知の現象を用いて新しい事実を発見することを今年度も目指す。問題意識としては、これまでナノセルロースが供されてきた材料では、均質構造の一次骨格としてのみその機能を期待され、植物が本来用いているような高次構造・高次機能を発現する余地がない。植物に範をとりナノセルロースを構造制御しようとすれば、その正しい形態を知らなければならない上、形態を制御し高次構造化する手法を見出だす必要がある。そのためには、当然、既存の理解から逸脱するような斬新なアイディアが必要である。申請者は、より自由にナノセルロースを理解し制御するための知見・技術を包括的に開発することを課題とし、ナノ繊維材料の利用についてより普遍的な理解を目指す。
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Research Products
(5 results)