Research Abstract |
本研究は大マグニチュードAEの発生メカニズムを明らかにし,その制御・抑制法を導出することを最終的な目的とした研究である。この目的のもとに,大マグニチュードAEの発生過程,発生トリガ,マグニチュード支配要因を解明し,大マグニチュードAEの物理現象を解明する。さらに,大マグニチュードAEが貯留層,透水性に与える影響,リスクを明らかにし,その上で制御・抑制法を検討する。 前年度までの研究により,大マグニチュードAEを発生させた,せん断滑りの特徴,間隙水圧の動的挙動と大マグニチュードAEの発生との関係が明らかになってきた。 今年度は,大マグニチュードAE,通常のAEが発生した断層面の走向の分布等の解析より,本フィールドの地熱貯留層を形成するき裂システムは,主に最大主応力に対する2組の共役な断層面によって構成されていることがわかった。しかし,各々の共役な断層面から発生したAEのマグニチュード,発生数は異なり,応力状態に対してアンバランスな地震活動であったことが明らかになった。 さらに,応力再配分に関する解析を行い,貯留層内で局所的に変化する応力状態を推定し,大マグニチュードAE発生との関係を明らかにした。その結果,AEの発生に起因する応力再配分(クーロン応力変化)の絶対値は,大きくて数MPa程度であり,水圧刺激により上昇する間隙水圧の値(数十MPa)に比べてかなり小さいことがわかった。また,大マグニチュードAEが発生したき裂構造面上のクーロン応力の時間変化と大マグニチュードAE発生との有意な相関は認められなかった。 これらのことより,AEの発生に起因する応力再配分が,既存き裂のせん断滑りの直接的なトリガとなっている可能性は低いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の研究実施計画に記載した各々の項目(a)(b)(d)に関する解析は全て終了した。またそれぞれの解析を行った結果,大マグニチュードAEの物理現象の特徴がより明らかになってきた。研究計画全体を考えた上でも,最終年次を前に大マグニチュードAEの性状を明らかにする解析が終わることができたため最終年次は,総合的な理解,解釈に注力できる。
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Strategy for Future Research Activity |
貯留層内の現象を総合的に理解するために,バーゼル地熱フィールドの貯留層シミュレータを開発する。現時点で得られている観測事実をもとに,大マグニチュードAEの発生を物理的に説明しうる物理モデルをシミュレータで表現する。しかし,現在得られている解析結果,観測事実からだけでは,完全に大マグニチュードAEが発生する物理現象を説明できない。その為に,「せん断滑りの構成則」という理論を用いることを検討している。
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