2011 Fiscal Year Annual Research Report
公害・環境概念の歴史的生成をめぐる論理と力学の解明
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10J04967
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
友澤 悠季 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 公害 / 住民運動 / 社会運動 / 市民運動 / 社会学 / 科学技術社会論 / 環境問題 / 高度経済成長 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「公害」および「環境」概念の歴史的な生成と展開のプロセスに働いた論理と力学を解明することである。現在、戦後日本の環境問題史は、「公害」と「環境問題」というふたつの概念で区切られて捉えられ、後者は前者に比べ、より複雑多様な問題を議論できる利便性が評価されてきた。だが、「公害」概念が主流であった1970年代における各地の公害反対住民運動は、補償問題や技術的対策だけではなく、社会構造のあり方、科学技術の功罪、発展の概念などを根本から問い直そうとしていた。本研究ではここに着目し、公害反対住民運動当事者らが、その行動を通じて「公害」「環境」概念をどのように解釈し変容させていったのかを検証している。 昨年度は、宇井純公害問題資料コレクション(埼玉大学共生社会教育研究センター所蔵)もとに岩手県・宮城県・鹿児島県・沖縄県において現地調査と資料収集を行ってきた。本年度は、主要な調査地が2011年3月11日に発生した東日本大震災で被災したため、(1)これまでの調査結果を1970年代の歴史的資料(新聞記事・出版年鑑)で系統的・客観的に位置付けなおす作業と、(2)宇井純氏の著作を全て縦覧する作業を行った。その結果、1970年代の公害反対運動と宇井氏の思想形成史の間には密接な連関があり、運動同士の横断的なネットワークの中で科学者が住民に鍛えられる道程があることが明らかになった。また、(3)新たに、当時の公害反対運動の多くが参照した事例として、明治期から戦後にかけて関東一円に被害を与えた足尾鉱毒事件を調査対象に加え、群馬県・栃木県での聞き取り調査を行った。その結果明治期からの長期的スパンの中では、「公害」被害の代表例であった農業被害が、戦後に入って不可視化したことが「公害」「環境」概念の生成過程に深く関わる要素であることも抽出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画立案時に調査対象地として挙げた地域は、いずれも1970年代に公害反対運動が生起した場であるが、そこでの運動は全て港湾埋め立て開発に対して起こされたものという限定があった。そのため、港湾が生活圏ではない主体(例えば農業者)における「公害」「環境」概念の生成過程への考察が不十分になる恐れがあったが、今年度は、新たに明治期から現代まで続く環境被害の代表例・足尾鉱毒事件に関する調査を重ねることとなり、当初よりも幅広い視野で課題を検討・考察することが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度・今年度における聞き取り調査・資料収集の蓄積を論文・学会発表などの形にまとめる作業が課題である。とりわけ初年度の蓄積である岩手・宮城の調査結果は、東日本大震災により現地では失われてしまったものが多い。アカデミックな論文などの形式にとらわれず、冊子や資料集などの形によって当事者の方々に返却する手段を検討中である。
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