2010 Fiscal Year Annual Research Report
多バンド低次元導体における分子内電荷秩序化の理論的研究
Project/Area Number |
10J05075
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大森 有希子 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 低次元電子系 / 分子性固体 / 分子内電荷秩序 |
Research Abstract |
分子性固体(TTM-TTP)I_3は、1次元方向への高い伝導度を持つ状態から、温度の低下に伴い、非磁性の絶縁体へ転移する。この低温状態はTTM-TTP分子の対称性の低下を伴う2倍周期の秩序状態であり、分子性固体の研究で用いられてきた、1分子を1サイトとみなす単軌道モデルでは説明できない状態であった。 申請者のグループによる第一原理計算は、TTM-TTP塩が2つの分子軌道で記述されるべき系であることを明らかにし、その有効モデルを構築することに成功した。これら結果は2本の論文にまとめられ、今年度出版された。次に得られた有効モデルを平均場近似によって取扱い、この系の基底状態が分子内で電荷が偏る「分子内電荷秩序状態」であることを明らかにした。この状態は実験で得られた低温状態とよく一致する。さらにこの状態が、2つの分子軌道のエネルギー準位が接近していること、および分子内斥力が分子間斥力よりも小さな値をもつこと、という2条件により成り立つことを示し、これらの結果を論文にまとめ、今年度出版した。 以上の結果をもとに、汎関数繰り込み群による解析を行った。はじめに1次元系における従来の繰り込み群と比較するため、この系における後方散乱、前方散乱、およびunklapp散乱の値を求めた。その結果、下部バンドがフェルミ面に大きな寄与を与えないにも関わらず、2軌道間に働くHundカップリングと軌道交換相互作用が、後方散乱と Umklapp散乱を非等価にすることが明らかになった。この値のずれが非磁性の分子内電荷秩序状態を引き起こすことを示し、基底状態の相図を決定した。この結果は平均場計算によって得られた2つの条件と対応するものである。さらに、高エネルギー散乱を繰り込みの過程にとりこむことにより非磁性相が拡大することを示した。この結果は1次元ハーフフィルド系においで見つかっているBCDW相のメカニズムと対応していると考えられる。これらの結果を研究会および学会で発表した。
|
Research Products
(5 results)