2011 Fiscal Year Annual Research Report
多バンド低次元導体における分子内電荷秩序化の理論的研究
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10J05075
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大森 有希子 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 分子性固体 / 軌道自由度 / 汎関数繰り込み群 |
Research Abstract |
分子性固体(TTM-TTP)I_3は、TTM-TTP分子の積層方向に高い電気伝導度を持つ状態から、温度の低下に伴い非磁性の絶縁体へ転移する。この低温状態は分子の対称性の低下、すなわち分子内での電荷秩序化を伴う2倍周期の秩序状態であり、分子内電荷秩序状態と呼ばれている。これは分子性固体の研究で用いられてきた、1分子を1サイトとみなす単軌道モデルでは説明できない状態であった。 申請者らのグループはこれまでに、TTM-TTP塩が単軌道ではなく2つの分子軌道で記述されるべき系であることを明らかにし、配置間相互作用計算による2軌道有効モデルの構築を行ってきた。本年度その導出方法を完成させ、TTM-TTP塩と同じく軌道自由度の存在が指摘されている単一分子性金属[Au(tmdt)_2]への応用と共に、本年論文にまとめて出版された。 さらに第一原理計算より得られた有効模型の解析において、分子内電荷秩序状態が2軌道の作る軌道秩序状態として理解できることを提案した。このような分子内秩序化と軌道秩序化の対応は、フェルミ面近傍で分子軌道の準縮退が起きる場合に予想される分子軌道の対称性から一般的なものであると考えられる。本研究によって、分子性固体における軌道自由度の存在を指摘したことに加え、軌道秩序化という軌道自由度がもたらす顕著な物性を分子性固体において発見したことは、今後この分野の研究において理論・実験両面に大きな意義をもたらしうるものと考えられる。また従来の繰り込み群(g-ology)の手法と接続できるWick-ordered法による汎関数繰り込み群の手法を用いて、1次元2軌道系における正確なg-ologyの式を始めて導出し、g-ologyの文脈における軌道秩序化現象を明らかにした。加えて、相互作用の波数依存性がもたらす非磁性相の拡大を見出し、単軌道の1次元拡張Hubbard模型におけるBCDW相の発現との関連を議論した。以上の内容を国際学会において発表し、現在論文として出版準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
結果はまとまったが、成果を報告する論文の出版が遅れている。 (主な原因:出版論文に必要な配置間相互作用による有効模型パラメータの決定(共同研究)の遅れ。本年1月に出版)
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の大きなメッセージは、(TTM-TTP)I_3の分子内電荷秩序化=軌道秩序化現象を通し、分子性固体において「分子軌道の軌道自由度」という新たな研究対象の存在を提示することであった。 これに引き続き多軌道系分子性固体の物性を開拓すべく、BDA-TTPとBDH-TTPが作る分子性固体をとりあげる予定である。これらの分子は、TTM-TTP分子において申請者らが指摘した分子軌道のエネルギー準縮退発生と同様のシナリオによって2軌道系をなすことが期待される。特に、β-(BDA-TTP)_2AsF_6において観測された一軸性圧縮下における超伝導転移温度の奇妙なふるまいは単軌道模型では再現されておらず、これまで考慮されてこなかったこの系の軌道自由度が原因になっていると期待できる。
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Research Products
(2 results)