2011 Fiscal Year Annual Research Report
北極海海洋炭素循環に寄与する微生物バイオマスの定量的評価
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10J05081
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
天野 千恵 (佐藤 千恵) 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 北極海 / 海洋古細菌群集 / 海洋炭素循環 |
Research Abstract |
本研究では、近年の急激な海氷減少からも分かる通り、現在その海洋環境が極めて大きく変化おり、温暖化の影響が最も現れやすいとされる北極海を対象として、北極海海洋炭素循環に古細菌群集バイオマスがどの程度寄与しているかを解明することを目的とした。膨大な体積を占める海洋有光層以深における化学合成独立栄養性の古細菌による炭酸固定が、地球規模の炭素貯蔵の役割を持つ可能性を明らかにすることで、海洋細菌を介した炭素循環が地球規模の炭素循環にどの程度関与しているのかを解明する重要な位置付けになると考えられる。 2008年から2010年の夏季、太平洋側北極海で行われた海洋地球研究船「みらい」による北極航海に乗船し、海洋細菌試料を採取した。並行して、海洋細菌の炭素循環解明には正確な増殖速度及び代謝把握が必須であることから、Rotary clean sea water sampler (ROCS)現場培養機(最大稼動可能水深4,500m)を、実環境における細菌の増殖速度と代謝活性の測定を行うための現場培養機として実験に取り入れ、日本近海の実験場所として静岡県駿河湾を設定し、細菌増殖速度の測定を検討した。 CARD-FISH法および古細菌の16S rDNAを用いた系統解析によると、太平洋側北極海の中でも細菌群集分布に違いがあることが明らかとなった。特に海洋古細菌群集の分布は、北極海特有の水塊構造や卓越した陸棚海底地形等によって、地理的分布特性を有しており、シベリア側の海域で古細菌細胞密度の増加が確認された。一方で、ROCS現場培養機は水深400mの現場環境において、海水試料採取から基質添加、培養に至るまでの一連の動作を問題なく行うことが出来ることが確認された。CARD-FISH法を用いた真正細菌・古細菌の増殖速度算出実験の結果、船上で培養する系よりも現場細菌の増殖速度が遅い可能性が考えられ、さらに詳細に現象を追う必要性があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画していた海洋微生物のRNAを用いたRNA-Sip法による実験系が予定より遅れている。これは海水からの微生物RNA量を確保するのが困難であることに起因する。海水中の微生物量は実験室での培養系とは異なり、生物密度が少ないことから、分析に必要なRNAを抽出するために多くの海水試料が必要となる。時間は必要としたものの、実験手法の確立はなされてきているので、最終年度に実験結果が加えられると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
北極海の海洋炭素循環に微生物バイオマスがどの程度寄与しているかを把握するために、これまでに現存している微生物バイオマス量の算出を行った。今後の研究の方向性としては、これまでの研究を継続して実験データを得ることとする。具体的には、第一に海洋深層にも広く分布する微生物の増殖速度を正確に測定するために、ROCS現場培養機を用いてin situの微生物増殖速度の測定を行う。第二に海洋微生物に対して安定同位体基質添加実験を行い基質の取り込みに関する証拠を得る。上記1点目の増殖速度測定結果と現存している北極海の微生物バイオマス量のデータから、海洋微生物を介した炭素循環のフローを描く。
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