2010 Fiscal Year Annual Research Report
ソフトマターのダイナミクス研究のための新たな手法・時間領域干渉計の開発
Project/Area Number |
10J05287
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋藤 真器名 京都大学, 原子炉実験所, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 準弾性散乱実験 / 核共鳴散乱 / 過冷却液体 / ダイナミクス |
Research Abstract |
放射光を用いて原子核を共鳴励起し、再放射されるガンマ線をプローブ光として準弾性散乱実験を行う手法のひとつが時間領域干渉計(TDI)である。本研究の目的はTDIを開発し、ガラス形成物質やソフトマターのスローダイナミクス研究を行うことである。まず標準的な試料の測定によりTDIが十分正しく微視緩和時間を測定可能なことが実証され、その測定可能な緩和現象の空間スケール、時間スケールはこれまで測定が困難な領域であることを示した。このとき分光核種として^<57>Feを用い、測定系の条件を最適化した。 開発されたTDIを用いてガラス形成分子液体σterphenylおよび高分子polybutadieneに対する準弾性散乱実験を行った。これより緩和時間τの温度T依存性のほかに、運動量移行q依存の情報を持つ緩和マップであるq依存の緩和マップを得ることができた。この緩和マップより、τの温度変化に着目すると、静的構造因子の第一ピークでは測定温度の範囲内でVogel-Fulcher-Tammann (VFT)則に従うが、それより大きなq領域では低温で単純にVFT則には従わず、より低温でArrhenius則により比較的良く解析できるという結果を準弾性散乱実験では初めて示した。これらの交点温度T_<αβ>~278K以下でτの温度変化をArrhenius則により解析した結果、活性化エネルギーは誘電緩和で得られたslow β過程のものと近かった。さらにこの変化が静的構造因子の第一ピークよりqの大きな領域で生じたため、T_<αβ>近傍で分子間スケール以下のスケールのslow β緩和が生じ始めたためこの変化が起きたと解釈された。また測定q範囲内でT_<αβ>に明確なq依存性は観測されなかった。このような現象の測定はこれまで不可能だったものである。高分子polybutadiene、分子液体σ-terphenylの両者で同様の結果が得られたことから上記の結果が一般的であり、過冷却液体の微視的なスローダイナミクスについての重要な実験結果を得たと考えている。
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Research Products
(5 results)