2011 Fiscal Year Annual Research Report
河川環境変化が水生昆虫の遺伝的多様性に与える影響の解明
Project/Area Number |
10J05462
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
八重樫 咲子 東北大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 河川底生動物 / マイクロサテライト / 遺伝的多様性 / 河川環境 / 交雑 / 移動分散 |
Research Abstract |
本研究は,自然河川と流量制御を受けた河川に分布する底生動物の遺伝調査により,水生昆虫の流域内の遺伝子流動と遺伝的多様性に与える影響の解明を行うことを目的として行われている.この背景のもと,底生動物の遺伝解析および底生動物群集構造解析により,水生昆虫の流域内遺伝子流動パターン,集団における遺伝的多様性の原動力,生息場と集団の遺伝的多様性の関係の解明および河川撹乱後の群集構造の解明を行った.水生昆虫の移動分散に関する情報は工学的にも生態学的にも必要とされるが,従来の観察による手法では多大な労力が必要となる.本研究では遺伝情報を用いてヒゲナガカワトビケラ(Stenopsyche marmorata)の移動分散の解析を行った.その結果,従来の河川に沿った移動パターンに加えて横方向の移動が行われていることが判明した。また,従来方法と遺伝解析による移動距離の推定結果はほぼ一致し,遺伝解析が移動分散の解析に対して有効であることが示された.近年,温暖化や人為的な生息域の改変により歴史的背景の異なる集団の接触が発生している.このような接触が集団に有害遺伝子をもたらす危険性が叫ばれているが,同時に集団の遺伝的多様性を高める効果もあると考えられる.ヒゲナガカワトビケラの遺伝情報を用いて歴史背景の異なる2集団の交雑の解析を行った結果,交雑によって遺伝的多様性が高められていることが示唆された.本解析は遺伝的多様性の低下した集団において,集団の存続可能性を高める具体的な河川管理に応用されることが期待される.続いて河川の上流から下流まで,早瀬からワンドまで広く生息するモンカゲロウ(Ephemera strigata)を対象に生息場構造と遺伝的な環境適応の関係を解析した.ハビタット多様性と遺伝的多様性の間に相関が見られ,多くのハビタットが均等に存在するほど集団の遺伝的多様性は高まることが示唆された.この結果は河川設計の際の有用な情報となりうる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初は震災によるサンプルの損失などによる遅れが見られたが,当初予定していた段階までサンプルの採取およびデータの解析が行われたこと,国内外への論文発表および学会発表へ取り組んでいることから概ね順調に進展しているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では今後,遺伝的多様性および水生昆虫群集構造と生息場の多様性の関係の解析を行ない,ダムの流量調節や河川の再蛇行化などの河川の自然再生事業が遺伝的多様性と地域間交流に及ぼす効果を予測する.
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