2011 Fiscal Year Annual Research Report
超低損失電力素子実現に向けた炭化珪素における点欠陥の物性解明と制御法の確立
Project/Area Number |
10J05621
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川原 洸太朗 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 省エネルギー / 炭化珪素(SiC) / 点欠陥 / 深い準位 / 深い準位制御法 / 熱酸化 / 深い準位低減メカニズム / 深い準位分布の予測 |
Research Abstract |
社会の省エネルギー化が急務となっている現在、SiC(シリコンカーバイド:炭化珪素)は超低損失電力素子を実現する材料として注目されている。しかし、SiC結晶中の欠陥がSiC電力素子を実用化する妨げとなっている。特に、(点欠陥に起因する)深い準位はキャリアトラップおよび再結合中心として働き、素子の導電率およびキャリア寿命を減少させる。本研究の目的は、高性能・低消費電力SiC電力素子実現に向け、SiC結晶中に存在する深い準位を明らかにし制御することである。 本年度は特に「熱酸化を用いた深い準位制御法の確立」を目指し、「A 熱酸化による深い準位低減のメカニズムを解明すること」および「B 熱酸化後の深い準位分布の予測を可能とすること」に挑戦した。その結果、以下に記す方法を用いて、目標A、Bともに達成した。 深い準位を低減する方法は、現時点で二つ発見されている。一つは熱酸化、もう一つはCイオンを注入した後に高温でアニールする方法(本報告ではCイオン注入法と呼ぶこととする)である。Cイオン注入法によって深い準位が低減する理由は、「注入されたC原子がアニール中にSiC中に拡散し、深い準位の起源であるC空孔を埋めるためである」と考えられる。目標Aを達成するため、深い準位に対する熱酸化およびCイオン注入法の影響を比較した。その結果、両試料において同じ種類の深い準位が低減・生成することが分かり、熱酸化においても格子間原子の拡散現象が生じ深い準位が低減している可能性が高いことが明らかになった。 目標Bを達成するため、上述のモデルに基づいた拡散方程式を解き、熱酸化後の深い準位の深さ方向分布を予測した。その結果、あらゆる酸化温度・酸化時間・初期の深い準位密度分布において、実測値を再現することに成功した。これにより、プロセス実行前に必要な酸化条件を知ることが可能となり、「熱酸化を用いた深い準位制御法の確立」へ大きく近づいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は、熱酸化による深い準位低減のメカニズムを解明することであった。その点で、本研究は計画通りに進んでいると言える。当初は申請書で提案した通り三つの手法を用いて解析を進める予定であったが、手法1(同位体制御エビ層を用いたSIMSによる評価)に関しては、要求される純度のSiC原料ガスの入手が不可能であることが判明したため、実験継続を断念した。ただし、その他の二つの手法用いて上記結果を得ることができたため、本件は「熱酸化を用いた深い準位制御法の確立」を達成する上で支障とはならないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
深い準位を完全に制御するためには、その起源を明らかにする必要がある。しかし現時点では、直接的に起源が確かめられている深い準位は存在しない。よって、今後は、SiC中の深い準位の起源解明を目標とする(特に素子に大きな影響を与える深い準位を優先して調べる)。そのために、これまで用いてきたDLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)による評価に加えESR(Electron Spin Resonance)による評価を行い、両者結果を比較することにより、起源を特定する直接的証拠を得ようと考えている。ただし、前者は深い準位の密度・エネルギー位置等を検出する測定法であり、後者は点欠陥の密度・種類等を検出する測定法である。
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Research Products
(4 results)