Research Abstract |
本研究では大きく2つの研究成果を得た.1つは,Yano (1989, Journal of Mathematical Economics)が提唱した確率的動学的最適モデルの解析手法を大域的な比較動学分析に拡張した研究であり,もう1つは,エルゴードカオスと呼ばれるクラスの動学システムの基礎研究および経済モデルへの応用である.これらは,恒久的に振動的な振る舞いを続ける確率的経済動学および,擬確率的な経済動学の,過渡的な特徴を捉えることを目的としている. 第一の研究の成果は次の二点である.(1)確率的最適成長モデルの均衡解のサポート価格は本質的に有界な確率変数として取ることができ(2)さらに,内点最適解が初期値と割引因子に関して連続である 一般的な経済解析が価値の連続性に依拠していることを考慮すると,これらの結果は,応用上重要な性質であるといえる.さらに,(2)の性質に関していえば,これはAraujo and Scheinkman (1977)が示したように,ターンパイク性を導く重要な条件である.確率的動学的成長モデルが定常均衡に大域的に漸近収束するという性質は単調性に基づぐ議論が広く知られている(Stokey, Lucas and Prescott 1989, Hopenhayn and Prescott 1992)が,Yano(1989)および本研究の手法を拡張することでより一般の成長モデルについて,微分可能性の仮定のもとで同様の事実を証明できる可能性を示唆している. 第一の研究では経済モデルに応用可能なエルゴードカオスの十分条件を与え,具体的な経済モデルがエルゴードカオスであることを示す.理論的な成果としては, (3)写像が単峰的で,かつ繰り返し写像が拡大的であればエルゴードカオスである ことを証明した.これはよく知られた『唯一の微分不可能点をもつ写像が単峰的かつ拡大的であればエルゴードカオス』という条件を緩和したものである.経済モデルでは,次期に持ち越される資本が存在する多部門モデル(耐久資本財のケース)などにおいて,自然な形で拡大性を持たない(最適)動学方程式が現れるため,この十分条件が成り立たないケースが数多く知られている.拡大性の条件を緩和することで(4)Matsuyamaの内生的成長モデルと(5)2部門最適成長モデルがエルゴードカオスを生じることを示した.本研究で得られた十分条件では,従来の条件から,拡大性の条件以外に微分可能性の条件を緩和している.これにより,3部門以上の最適成長モデルなど最適動学関数が複数のキンクをもつケースに対しても適用可能であり,内生的な景気循環の説明力を大きく高めることができる.
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