Research Abstract |
本研究の目的は,他者の行為理解の個体発生的起源に関する証拠と,その機能やメカニズムを実証的に検討することにある。申請者はこれまでの研究によって,ダイレクトマッチング仮説の観点から,乳児期初期において他者の行為理解(行為の目標予測)と乳児自身の運動能力の発達的対応を示した。本年度は,この研究を国内外の学会で発表するとともに,その研究領域に関するレビュー論文や実験論文を国際誌に投稿し,前者は刊行されるまでに至った。また,この研究を拡張する形で,ダイレクトマッチングによる他者の行為理解の感情的な側面として位置づけられる同情や共感という現象に関して,その個体発生的な起源を検証する実験を行った。その結果,生後幼い時期でも他者に対する同情的態度がみられるという結果が得られた。この研究成果に関しても,論文を執筆するとともに,来年度には国内外の学会でその成果を発表する予定である。これらの2つの研究の意義は,他者の行為理解の個体発生的な証拠を,ダイレクトマッチング仮説の観点から実証に行った点にある。これらの研究は,当該分野において今までにない知見を提供することにより,その分野において非常に重要な研究に位置づけられることが予想される。 また,乳児研究と並行して,成人を対象に,生物と無生物の行為理解における異なる発達経路に対応する神経基盤の検証も行っている。この研究は未だサンプル数は少ないが,無生物の行為理解において,社会性の認知に関わる領域(メンタライジング領域)が,ミラーニューロンシステムの活動を誘発するという結果が得られている。この結果は,メンタライジング領域とミラーシステムに相互作用があることを示しており,行為理解の神経基盤に関する研究分野に新しい知見を付与する可能性を秘めている。
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