Research Abstract |
本年度は,社会不安が高次認知機能の1つであるワーキングメモリに与える影響について,ワーキングメモリの量および注意の効果に着目し,主に以下の2点を明らかにした。 第1に,社会不安が強いほどワーキングメモリ容量が多いことが複数の実験で明らかとなった。これまで,社会不安が強いほどワーキングメモリが低下していると考えられてきたが,今回視覚に特化した課題を実施したところ,むしろ社会不安の強い人ほどより多くの刺激をワーキングメモリとして保持していることが分かった。多くの刺激を保持する結果,本来の目的とは関連のない妨害刺激まで処理している可能性が考えられ,その点についても検討した。結果,不安が強いほど確かに妨害刺激を処理する傾向にあるが,その傾向はむしろ抑うつで顕著に見られた。つまり,社会不安者は多くの刺激を保持する一方,抑うつ者は目的とは関係のない刺激を抑制することが困難であるといえる。第2に,ワーキングメモリ課題を実施している際社会不安が強いほど注意制御能力が低下していることが明らかとなった。記憶している刺激と同様の刺激が提示されると,注意制御能力が低下している人ほどよりその刺激に注意を向けることが知られている。今回,初めて社会不安を対象にこの課題を実施したところ,社会不安が強いほど記憶している刺激に注意を向け,注意がそこから離れられないことが分かった。情動を伴わない刺激であるにも関わらず注意制御能力の低下が見られたことから,これまで言われてきた社会不安の"情動を伴う認知制御の低下"から一歩進み,情動を伴う以前に既に認知制御が低下していることが分かった。これは,社会不安の改善に情動処理ばかり着目していたこれまでの流れに一石を投じると考えられ,新たな治療方法を提言することが可能となるだろう。
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