2011 Fiscal Year Annual Research Report
相対論的効果を導入したスピン依存伝導の理論と第一原理計算手法の確立
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10J06092
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小田 洋平 東北大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 遷移金属合金 / 結晶磁気異方性 / 第一原理計算 / スピン軌道相互作用 |
Research Abstract |
本年度の研究では、電子の運動に対する相対論的な補正であるスピン軌道相互作用を導入した物質の電子状態計算の手法を用い、不規則合金の結晶磁気異方性の定量評価を行った。具体的には、高磁気異方性材料として期待されるL1_0型FePt合金と呼ばれる物質に着目し、その一軸異方性定数の規則度依存性を第一原理計算によって見積もった。ここで、一軸異方性定数とは、強磁性体の磁化を容易軸方向と困難軸方向に向けた場合における単位体積当たりのエネルギー差で定義される。これまでもL1_0型FePt合金の規則構造に関しては第一原理計算によって現実物質の一軸異方性定数の定量評価が行われた報告例は数多くある。しかし、実験によって得られる測定値との不一致が問題となっており、その原因の一つとして、実際に作製される試料には結晶の乱れの影響が挙げられる。したがって、結晶の不規則性の影響を考慮した磁気異方性の再検討を行うことが重要であると考えられる。そこで、L1_0型FePt合金の一軸異方性定数の規則度依存性の評価を行ったところ、一軸異方性定数は規則度の変化に対して単調に振る舞うことが分かった。さらには、一軸異方性定数は規則度のべき乗でフィッティングすることが可能であり、およそ、規則度の2乗に比例していることが明らかとなった。またその他にも、本年度の研究では、線形応答理論に基づく久保ストレダ公式を用いてFe-Ni合金の伝導度テンソルの第一原理的な評価等を行い、実験事実を再現できる結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、研究施設、および、設備が甚大な被害を受けた。約3ヵ月に渡り研究活動の休止を余儀なくされ、当初の研究計画を見直さざるを得ない状況となった。したがって、本年度は当初の研究計画を多少変更し、スピン軌道相互作用を導入した電子状態計算の方法を用いてFePt、CoPt、FePdなどの遷移金属合金の結晶磁気異方性の定量評価を中心に行った。しかし、当初の研究目的である電気伝導度テンソルの評価についても、その方法論を確立することができたため、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
震災の影響による計算機環境の復旧の遅れにより、平成23年度に予定していた「計算プログラムの並列化」に関してはその目的を達成することができなかった。計算プログラムの並列化が達成されれば、これまでよりも高効率な計算を実行することが可能であるため引き続き取り組む予定としている。また、復旧した計算機環境を活用し、遷移金属合金の結晶磁気異方性、ならびに、電気伝導度テンソルの物質依存性の解明に取り組む。
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