2011 Fiscal Year Annual Research Report
カイコがもつ感染性抵抗因子を利用したウイルス感染機構の解明
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10J06163
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
伊藤 克彦 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫ゲノム研究ユニット, 特別研究員(PD)
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Keywords | カイコ / カイコ濃核病ウイルス / Densovirus / 抵抗性遺伝子 / nsd-1 / nsd-2 |
Research Abstract |
私が単離に成功したカイコ濃核病ウイルス1型抵抗性遺伝子nsd-1(non-susceptibility to DNV-1)には、2つのスプライシングアイソフォーム(non-spliced formとspliced form)が存在することが明らかになった。昨年度、non-spliced formについては形質転換カイコを作出し、この構造の遺伝子産物が、ウイルス感染性に関与していることを突き止めた。本年度は、形質転換カイコを作出してspliced formも同様にウイルス感染性に関与しているのかを調査した。また、ウィルス抵抗性を示すカイコ13系統とウイルス感受性の12系統のnsd-1のシークエンス比較解析を行った結果、両者には2つのアミノ酸置換があること、このうち、ウィルス感受性には、1つのアミノ酸置換(感受性系統のアルギニン)が重要であることが示唆された。よって、この1つのアミノ酸置換で本当にウイルス感染性が決定されているのかどうかについても、同様に形質転換カイコを使って調査した。 形質転換カイコは、昨年度non-spliced formで確立したものと同様の方法で作出した。spliced formの抵抗性型NSD-1で2ヵ所のアミノ酸を感受性型に置き換えたものと、ウイルスの感受性に重要だと推定されたアルギニンのみを置き換えたものの2種類で形質転換カイコを作出した。RT-PCR法による機能証明実験の結果、今回試験したspliced form 2カ所置換とspliced form 1カ所置換のいずれでも、導入遺伝子およびウイルスの転写産物の発現が確認された。このことから、spliced formもnon-spliced formと同様にウイルス感染性に関与していること、さらには、1つのアミノ酸置換のみでウイルス感染性が決定されていることが証明された。 これまで、昆虫のウイルス感染における宿主因子の存在ならびにその原因は、私が2008年に報告したカイコ濃核病ウイルス2型の宿主感染性因子nsd-2(non-susceptibility to DNV-2)以外では明らかになっていない。よって、本研究で得られたnsd-1の機能証明実験の結果は、宿主タンパク質の1つのアミノ酸置換がウイルス感受性を決定していることを示した昆虫ウイルスで初めての実験例となるる
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単離に成功したカイコ濃核病ウイルス1型抵抗性遺伝子nsd-1の、形質転換カイコを用いた機能証明実験は終了した。さらに本年度は、ウイルスと抵抗性/感受性遺伝子産物との相互作用を調査するための実験系としてELISA法を確立し、問題点と改善点を明らかにした。これまでのところ、相互作用についての成果はまだ得られていないが、次年度につながる基盤は構築できた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的であるカイコ濃核病ウイルス感染機構の解明を目指すために、平成24年度はウイルスと抵抗性/感受性遺伝子産物との相互作用の調査を中心に研究を進めて行く予定である。特に昨年度確立したELISA法によって、生化学的に抵抗性/感受性遺伝子産物のウイルス感染における役割や、感染するために重要な構造等を明らかにしていきたいと考えている。また、当初の計画通り、バキュロウイルスを利用した一過性の新規アッセイ系の確立を進める予定である。これによって、容易にウイルス感染の有無を調査できるシステムを構築することを目指す。また、本システムが、形質転換に変わる新たな機能証明実験法として確立できないかどうかについても検討したい。
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Research Products
(4 results)