2011 Fiscal Year Annual Research Report
プリンヌクレオチド合成経路によるがん幹細胞の未分化維持機構の解明
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10J06332
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大塩 貴子 金沢大学, がん進展制御研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 幹細胞 / がん幹細胞 / 未分化維持 / プリンヌクレオチド合成経路 / Nucleostemin |
Research Abstract |
申請者のグループでは、幹細胞マーカー候補のNucleostemin (NS)の発現をGFPの蛍光によりモニターできるトランスジェニックマウス(NS-GFP)を作製し、がん幹細胞および正常組織幹細胞の特定と未分化性維持機構の解明に取り組んでいる。これまでに、精巣および脳腫瘍におけるNS高発現細胞集団には、正常組織幹細胞もしくはがん幹細胞(tumor-initiating cell)が濃縮していることを報告しており、NSは組織を越えた未分化性維持に関与していることが示唆されている。 本年度は、本トランスジェニックマウスを用いて正常肝臓組織での解析を行った。胎生期の肝臓では、DLK1陽性の細胞が、肝細胞と胆管上皮細胞への分化能とin vitroで高い増殖能を併せ持つことが知られている。DLK1陽性の細胞は、DLK1陰性の細胞に比べ、NS-GFPの発現量が高かった。新生児の肝臓には、NS陰性、弱陽性、強陽性の細胞が存在していたが、その中でin vitroでのコロニー形成能を持つのは、NS-GFP強陽性の細胞のみであった。成体マウス肝臓では、肝細胞と胆管上皮細胞の両方でNSが発現していた。部分肝切除により、肝細胞のNSの発現が一時的に上昇することも明らかになった。さらに、NSをin vivoでノックダウンすると、肝切除による細胞増殖が抑制された。また、in vitroで肝癌細胞株や肝前駆細胞のNSをノックダウンしても、細胞増殖は抑制された。以上の結果より、NSは肝細胞の増殖に必須のタンパク質であり、肝臓の未分化細胞のマーカーとなることが明らかとなった。このように、肝前駆細胞および分化細胞のいずれにおいても、再生という現象において、共通してNSが重要な役割を果たしていることを示唆している。また、本分子ががん組織においても増殖ポテンシャルと相関することとも連関すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、肝臓組織に焦点を当て研究を展開した。その結果、NSは胎児期の肝前駆細胞に発現が見られること、成体においては分化細胞である肝細胞でも発現しているものの、肝切除時の再生時には発現が上昇するという興味深い現象を観察することができた。このように、本研究課題達成のため順調に研究が遂行できていると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、奇形腫を含むgerm cell tumorなど腫瘍モデルマウスを用いて、NSの発現とがん幹細胞との関係について解析を進める。NSががん幹細胞のマーカー分子として機能していることが明らかになれば、プリンヌクレオチド合成経路を阻害することでNSの発現を抑制し、腫瘍形成が抑えられるのかを検討する。そして、プリンヌクレオチド合成経路とがん幹細胞の未分化性の維持制御メカニズムの解明に取り組む予定である。
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