2010 Fiscal Year Annual Research Report
軟X線発光分光を用いた遷移金属タンパク質の電子状態解析
Project/Area Number |
10J07206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 正起 東京大学, 大学院・工学系系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 金属タンパク質 / ミオグロビン / 硬X線発光分光 / 軟X線発光分光 / 共鳴非弾性X線散乱 / 電子構造 / 放射光 |
Research Abstract |
金属元素を含むタンパク質である金属タンパク質において、例えば呼吸を介したエネルギー・電子輸送といった生化学反応に関してその金属は重要な役割を演じる。これまでに巨大な分子集合体であるタンパク質については、その立体構造が良く調べられているが、その生化学反応を理解するには、生体物質における金属元素の電子状態的な観点からの知見が必要であると考えられる。今年度は、硬X線発光分光法によるミオグロビンの電子状態解析、及び生体物質の電子状態を実験的に測定するための軟X線発光分光装置の立ち上げを行った。 ヘム鉄タンパク質の一つであるミオグロビン(Mb)は、生体におけるO2やCO,NOといった分子の輸送や放出に基づく多くの生化学機能を有している。O2やCOといった分子は鉄が窒素に平面四配位されたヘム鉄と呼ばれる構造に対して、面直方向に配位すると考えらえており、Feの電子状態はその配位分子やヘム構造の歪みにより敏感に変化する。これまでに、Haradaらは軟X線発光分光を用いて水溶液中のミオグロビンにおけるFeの電子状態の観測に成功し、計算と比較することでFe 3d状態が固体中のFeと比べて広がっていることを報告している。この結論を検証するためには他の実験手法による評価が必要であると考え、元素選択的に電子状態を調べることが出来る硬X線X線発光分光を用いて、水溶液中のミオグロビンの電子状態解析を行った。実験は、水和状態のMb(metMb)と還元状態のMb(deoxyMb)において行った。Mb試料の発光スペクトルの形状を比較すると、僅かながら違いがあることが見て取れ、このことはmetMbとdeoxyMbにおけるFeの電子状態が異なっていることを意味している。この結果はFe 3d状態が配位子との混成を介して拡がっているというSXESの結果と矛盾しない。我々は、溶液中のMbにおいて硬X線発光分光を行い、SXESと相補的な情報を得ることに成功した。 また、我々はSPring-8の東京大学アウトステーションビームラインBLO7LSUにおいて、超高分解能の軟X線発光分光装置の建設を行った。BLO7LSUの軟X線発光分光装置で得られたMnOの共鳴非弾性X線散乱(RIXS)スペクトルは、世界最高性能を有するADRESSのスペクトルと比較しても、遜色のないスペクトルであり、BLO7LSUにおいて超高分解能のSXES測定が可能であることを意味している。また、溶液を測定するシステムを建設し、水の発光分光スペクトルを得ることに成功した。これにより、超高分解能での金属タンパク質におけるSXES解析が実現する。
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