2011 Fiscal Year Annual Research Report
沿岸性イカ類資源における繁殖形質多様性の進化・維持メカニズムの解明
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10J07243
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 容子 (岩田 容子) 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 海洋生態学 / 繁殖生態 / 表現型多型 / イカ |
Research Abstract |
特徴的な代替繁殖戦術とそれに関連した雄の種内多型を持つヤリイカ類を用い、集団中で多型が進化的に安定に維持されるメカニズムを解明することを目的とした。日本・南アフリカ・カリフォルニアに生息する3種のヤリイカ類は類似した代替繁殖戦術をもつが、繁殖システムが若干異なることが予測される。これまでの研究により、日本のヤリイカ・南アフリカヤリイカ両種において、複数の雄が一つの卵嚢の父性に関与していること、卵嚢中の受精卵に占める各雄の父性の割合が卵嚢ごとに大きく異なること、また乱交の度合いは日本のヤリイカより南アフリカヤリイカで強いことが明らかとなっている。そこで本研究では、3種間で個体の繁殖形質(精子の形態と授精能力、精英の形態、精巣へのエネルギー投資量)にみられる多型現象を比較した。平成22年度に3海域で行った野外調査により採集したサンプルを用い、繁殖形質二型がみられるかどうか分析した。その結果、より乱交で大型雄・小型雄間で繁殖成功の偏りが小さい種(南アフリカヤリイカ)ほど、大型雄・小型雄ともに多くのエネルギーを精子生産に投資することで激しい精子競争へ適応していること、同時にそれぞれの雄の行動に応じて繁殖形質を特殊化する淘汰圧が弱い結果、種内二型が小さいことが示唆された。 また種内二型(精子サイズの明確な二型)の適応的意義を調べるため、これまでに最もデータ蓄積のある日本の種を用いて、精子形態とその運動性、寿命、受精能力との関係を検証した。その結果、小型雄の作る精子は大型雄の作る精子に比べサイズが大きく、精子が活性化した後長時間高い運動性を維持すること、人工授精実験において長時間高い受精能力を持つことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初本年度も南アフリカ・カリフォルニアにおいて野外調査を計画していたが、研究代表者が出産・育児に伴い年度途中で研究を中断する必要に伴い、野外調査の予定を変更し、以前に採集したサンプルの分析、国内での実験、データ解析、論文執筆を集中的に行った。その結果、種間・種内における繁殖形質の違いを明らかにすることができ、研究目的の達成に着実に近付いている。
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Strategy for Future Research Activity |
南アフリカ・カリフォルニアの2種に関して、サンプルをさらに増やし分析を行う。採集・固定済みの標本を用いてマイクロサテライトDNA多型による親子判定により、繁殖システム(乱交度)の定量化を行う。また、本研究で扱う3種と生態が似ている南米に生息する近縁種のサンソルもこれまでに入手しており、その分析を行い種間比較に加えることを検討する。得られたデータを用いて、すみやかに論文執筆を行う。 なお平成24年度は育児休暇を取得のため、平成25年4月より研究を再開する予定である。
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