2011 Fiscal Year Annual Research Report
合理的行為者性の観点からの、自己知とその一人称権威についての哲学的分析
Project/Area Number |
10J07325
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
島村 修平 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 自己知 / 一人称特権 / 合理性 / 行為者性 / 透明性 / 命題的態度 / コミットメント / 外在主義 |
Research Abstract |
今年度の研究実施状況について報告すべき一つ目の出来事は、昨年度提出した博士論文「自分自身の心を知るということ:命題的態度を巡る哲学的ジレンマとその解決の試み」が受理されたということである。この論文は、主として研究目的(1)諸先行研究と比較した上で、「合理的行為者性」に訴える分析が持つ優位性を示すこと、(2)従来の「合理的行為者性説」の弱点を克服する改善を行うこと、(3)(1)と(2)で得られた研究成果を踏まえ、規範的機能主義の立場を展開すること、の三点に関わるものだった。その論文が受理されたことで、これらの研究目的は(次に述べるようにまだ展開の余地が残る点はあるものの)ひとまず達成されたと言える。 次に、時間が多少前後するが、博士論文提出後、報告者が今年度最も多くの時間を割いて取り組んできたのは、博士論文で取り上げた主題の一部をさらに深化・展開する作業である。具体的には、この作業を通して報告者は今年度二つの論文草稿を執筆した。一つ目は、自己知の特権性と心的主体が持つ合理的行為者性の関係を主題とする論文であり、報告者はここで研究目的(2)に直結する博士論文での考察を、その基本的な論点は維持しつつ、さらに深めようと試みた。この論文草稿は、現在日本の学会誌に投稿され、査読審査中である。二つ目は、心的状態の透明性と欲求の自己知との関係を明らかにするという課題に関わる。この課題は、報告者が博士論文を執筆する過程ではじめて見えてきたものであり、博士論文執筆後も、そこでのアイデアのさらなる深化・展開のために、多くの時間を割いて取り組んできた。「13.研究発表」の項に記載した二つの研究発表(国内・海外)はどちらもその成果を報告するものであり、その後報告者はこうした取り組みの成果を英語論文草稿の形にまとめ、現在は英文誌への投稿を計画中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
9で報告したとおり、報告者はここまで、当初立てた五つの研究目的の内、(1)(2)(3)についてひとまず達成の目処を立てることができた。また、12で述べるように、今後(4)を完成するための見込みも持っている。さらに、こうした研究を進める中で、透明性説の限界と欲求の自己知の解明という、新しい有意義な研究課題を見出すことができ、それに対しても現在進行形で取り組んでいる。これらの状況を鑑みて、報告者の研究は当初の計画以上に進展していると言うことができると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を進めるに当たっては、まず残る研究課題(4):「意味論的推論主義」という道具立てを用いた、「外在主義」と「権威的自己知」の両立の問題の解消を中心に取り組んでいきたい。報告者は2012年初頭から現在に至る1まで海外研修のため米国・ピヅツバーグ大学にVisiting Scholarとして滞在している。ピッッバーグ大学には、推論主義の提唱者として知られる、Rブランダム教授が在籍している。報告者はこれまですでに、教授に依頼して(4)を論じた英語論文の草稿に対してコメントを伺う機会を得ることができた。さいわい教授からは、論文の基本的な路線についての賛同を得ることができたものの、同時に英文誌に投稿するに際して必要ないくつかのアドバイスも受けた。今後は、このアドバイスを受けて、この論文をより洗練させ、英文誌への投稿を目指したい。
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