2011 Fiscal Year Annual Research Report
報酬・罰より生じる衝動性のメカニズムの解明に関する認知科学的検討
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10J07827
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
増井 啓太 広島大学, 大学院・総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 衝動性 / 罰 / サイコパシー / 利他性 / 利己性 / 感情 / 意思決定 |
Research Abstract |
本年度は報酬・罰より生じる衝動性のメカニズムを詳細に検討するために、衝動性と密接に関連するサイコパシーと利他的罰行動との関連についての実験を実施した。サイコパシーとは、利己的で冷淡という情緒・感情面の特徴を示す一次性サイコパシーと衝動的行動を特徴とする二次性サイコパシーを含む複合的な個人特性と定義されている(Hare,1991;2003)。また、利他的罰行動とは、社会の相互協力状態を維持することを目的とした非協力的な他者に対する罰行動のことで、われわれは利他的罰行動のためにはコストを支払うことを厭わないといわれている(Fehr & Gachter,2002)。 以上のことより、利他的罰行動は向社会行動の一種と定義されている。先行研究では、利他的罰行動は特に一次性サイコパシーと関連することが指摘されているが(Koenigs et al.,2010)、二次性サイコパシーとの関連については言及されていない。そこで、本研究では利他的罰行動と二次性サイコパシーとの間にも関連がみられるかどうかを検討した。さらに、コストの有無を変えた条件を設定し、利他的罰行動と一次性サイコパシーとの関係性をより詳細に検討した。 実験参加者は大学生50名(男性22名)で、サイコパシー尺度の得点に応じて低サイコパシー群・高サイコパシー群に分類された。利他的罰行動の測定には利他的罰パラダイム(de Quervain et al,2004)を用いた。実験の結果、高サイコパシー群の参加者のほうが利他的罰行動をより行っていた。また、利他的罰行動は、二次性サイコパシーとの間には有意な関連はみられなかったが、一次性サイコパシーとには正の有意な関連が認められた。さらに、一次性サイコパシー傾向が高いほど、利他的罰行動を行うことで、罰した相手に対して「ざまあみろ」や「いい気味だ」という感情を高めていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単に自分が得をした、損をしたという個人的な状況での報酬・罰だけでなく、対人場面といった様々な状況における報酬及び罰と衝動性との関連について検討できたことが当初の計画よりも進展している点である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はサイコパシーと報酬・罰に関連する様々な意思決定との関連について検討を行う予定である。具体的には集団や個人の道徳的意思決定とサイコパシーとの関連を検討したいと考えている。また、これまでのサイコパシー研究では主にサイコパシーと感情の欠如や攻撃性との関連に及ぼす遺伝的要因に関ついての知見が蓄積されてきた(e.g.,Sadeh et al,2010)。一方で、サイコパシーの感情的・行動的特徴に及ぼす社会環境要因(例えば社会経済的地位やソーシャルサポートなど)の影響については、ほとんど検討されていない。しかし、社会環境要因が我々の意思決定や行動に影響を及ぼすことはすでに明らかにされている。例えば、社会経済的地位が低いことやソーシャルサポートの受容が少ないことが攻撃性を助長させることが示唆されている(e.g.,Wadsworth & Achenbach,2007)。以上のことより、社会環境要因がサイコパシーの感情的・行動的特徴に影響を及ぼすことが考えられる。以上のことより、今後は、サイコパシーと報酬・罰に関連する様々な意思決定や行動との関連の検討に加えて、それらの関連に及ぼす社会環境要因の影響について検討する。
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Research Products
(7 results)