2011 Fiscal Year Annual Research Report
赤外レーザー分光と量子化学計算による生体分子高次クラスターの微細構造決定
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10J08000
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
浅見 祐也 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 核酸塩基 / 孤立気相分光 / 赤外振動スペクトル / 量子化学計算 / 尿酸 / 水和 / 電子スペクトル / 微細構造 |
Research Abstract |
生物が多様な進化の中から作り上げてきたRNAやDNAヌクレオチドは、遺伝情報として利用されるだけでなく、生体内の生理作用や情報伝達といった重要な役割を担っている。このような生体分子はX線結晶回折やNMRの測定によって構造の知見を得ることが可能だが、この手法では周囲に存在する分子の影響を受けるため、単量体本来の構造を知ることができない。そのため、我々は生体分子の正しい性質を知るため、孤立気相のレベルでの赤外振動分光法を用いて、その微細構造を明らかにしてきた。 平成22年度の研究で、化学修飾法を用いることにより、分子の物性制御、また多量な安定構造の抑制に成功した。この手法を応用し、5'-O-エチルグアノシンを合成し、従来グアノシンの測定では観測できなかったantiのコンフォマーを観測することを試みた。この結果、このanti体を観測することに成功し、化学修飾によって、DNAやRNAにみられる大きな構造変化を任意に制御し、観測できることが明らかとなった。 また本年に研究では、グアニン類以外の核酸塩基ヌクレオチドの構造解析を目指して、アデノシンの非破壊的気化に着手する予定であった。このアデノシンの測定を行った結果、単量体の信号は観測できなかったが、その二量体において特異的な会合状態が存在することを初めて明らかにした。またグアニン塩基以外の核酸として、尿酸の測定にも着手し、見事に単量体の信号を観測した。さらにこの単量体と水和物の微細構造を決定することにも成功し、尿酸にみられる疎水的な性質を分子科学の観点から説明することに成功した。 以上の業績をアメリカ化学会の速報誌(Journal of Physical Chemistry Letters)、および英国化学会のPhysical Chemistry Chemical Physicsに発表し、いずれも高い評価を受けた。さらに、国内外の学会等で発表(口頭講演2件、うち1件は英語講演)を行い、分子科学会優秀講演賞、横浜市立大学学長奨励賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書には、5'-O-エチルグアノシンおよびアデノシンの構造決定を主な目標としていたが、本年はそれに加えて、尿酸の水和構造を決定し、この結果から疎水的な性質を分子論的に明らかにすることにも成功した。また申請書には非調和振動計算の方法論の確立を目指すことを記したが、本年はアデノシン二量体(64原子分子)の非調和振動計算にも成功し、大分子系に適用するための新たな手法も構築できた。この詳細は繰り越し分の報告書に記す。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年と本年度の研究を通して、核酸塩基ヌクレオチドを孤立気相状態で微細構造決定する条件、またその安定構造を化学修飾法により制御する条件、さらに大分子系に適用できる非調和振動計算の条件が確立した。以上の技術を用いて、最も短い鎖状構造を持つジヌクレオチドの微細構造解析に着手するのがセオリーである。この解析を通して、DNAの持つ特異な物性を構造化学の側面から解明したいと考える。
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Research Products
(7 results)