2010 Fiscal Year Annual Research Report
ゲージ理論の強結合展開に基づくグラフェンの相構造の解明
Project/Area Number |
10J08037
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒木 康史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | グラフェン / 強相関電子系 / 格子ゲージ理論 / 強結合展開 |
Research Abstract |
炭素の層状物質であるグラフェン(graphene)上の電子は現在、実験・理論の双方で多大な注目を集めている。しかし、外部の物質の影響を受けない真空中のグラフェンの電子物性はまだ知られていない事項が多い。真空中では電子間のクーロン相互作用が遮蔽されないため、相互作用が実効的に強くなると予想される。このため、真空中のグラフェンでは電子と正孔がペアを組み(エキシトン凝縮)、ギャップを生成して絶縁体として振舞う可能性が指摘されている。 本研究では、強結合でのグラフェンの電子物性を解明すべく、グラフェンの低エネルギー有効理論として正方格子とのゲージ理論を用い、強結合展開の手法を用いて解析的に扱った。これにより、強結合領域では確かにエキシトン凝縮によりギャップが開き、その大きさは結合の強さに連動することを示した。さらに対称性の破れに伴い、低エネルギーのボソン励起が出現することを示唆した。仮にこのような低エネルギー励起が実験的に観測できれば、それはエキシトン凝縮の有用な証拠となりうる。本研究と同じモデルを用いたモンテカルロ計算による研究が海外のグループにより発表されており、本研究は強結合極限周辺についての相補的理解を与えることが期待される。 一方、よりグラフェンを正確に記述するため、元々の六角格子構造を残した格子ゲージ理論を導入した。この理論に強結合展開を適用し、部分格子対称性の破れ、および格子ひずみといった2種類の六角格子対称性の破れパターンの競合について議論を行った。その結果、部分格子対称性は強結合極限では正方格子の場合と同様に自発的に破れるが、格子ひずみの導入により徐々に回復されることを示した。この結果は、吸着原子などで格子ひずみを変化させることで、部分格子対称性をコントロールできる可能性を示唆する。 以上の研究成果をいくつかの論文としてまとめ、国内外の複数の会議・研究会で発表を行った。
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