2011 Fiscal Year Annual Research Report
ゲージ理論の強結合展開に基づくグラフェンの相構造の解明
Project/Area Number |
10J08037
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒木 康史 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | グラフェン / 強相関電子系 / 格子ゲージ理論 / 強結合展開 / 競合現象 |
Research Abstract |
炭素の層状物質であるグラフェン(graphene)は実験・理論双方の分野において多大な注目を集めている。しかし、真空中の宙吊り状態のグラフェンの電子物性はまだ知られていない事項が多い。真空中のグラフェンでは電子と正孔がペアを組み(エキシトン凝縮)、ギャップを生成して絶縁体として振舞う可能性が指摘されている。このメカニズムは量子色力学(QCD)などの強結合ゲージ理論におけるカイラル対称性の自発的破れ、フェルミオン質量の動的生成に類似していることから、これらの高エネルギー理論の研究手法を活用したグラフェンの研究が期待されている。 平成23年度、本研究員は格子構造を由来とする秩序を取り入れるべく、グラフェンの六角格子構造を保つU(1)格子ゲージ理論のモデルを構築した。その上で、強結合展開を行うことによりクーロン相互作用の強結合領域における系の振舞いを考え、異なる秩序間の競合について以下の2つの問題を取り扱った。 (1)自発的に生成される部分格子対称性の破れと、外的に誘起されるKekule歪みの競合 強結合極限においては、六角格子の部分格子対称性(カイラル対称性に対応)が自発的に破れ、ギャップを生成する可能性がある。一方、格子歪みの一つであるKekule歪みは並進対称性を部分的に破ることによりギャップを生成するが、吸着原子などによって外的に誘起される可能性が指摘されている。本研究では、これらの自発的秩序および外的秩序の競合現象について、相互作用の強結合領域において格子上の強結合展開の手法を用いて取り扱った。その結果、部分格子対称性の破れは外的Kekule歪みにより抑えられ、Kekule歪みが十分大きい場合は相互作用の強さに関係なく部分格子対称性が回復されることを示した。 (2)自発的に生成される部分格子対称性の破れと、自発的に生成されるKekule歪みの競合 Kekule歪みは(1)のように外的に誘起されうる一方、相互作用によって自発的に生成される可能性もあることが指摘されている。本研究では、このような自発的Kekule歪みと自発的部分格子対称性の破れの競合現象を基本理論であるU(1)ゲージ理論から導出すべく、格子理論の強結合展開を用いて解析を行った。その結果、強結合極限の近傍では同一サイト間相互作用が支配的となるため、部分格子対称性の破れが誘起される一方、強結合極限から少し離れると隣接サイト間相互作用が支配的となるため、Kekule歪みが自発的に生成されるようになることを明らかにした。更に、このKekule歪みの相は歪みの向きによって2つの相に分かれることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究では、研究計画どおりグラフェンの有効理論として六角格子構造を保った格子ゲージ理論を構築し、強結合展開の手法によって複数の秩序現象の間の競合現象を調べることができた。さらに、外部から導入した秩序と自発的秩序の競合に関しても、ここで構築した理論をもとに解析を行うことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究では、前年度の研究を発展させ引き続き、グラフェンにおける外部から導入した秩序と自発的秩序の競合現象について議論する。具体的には、外部から導入する秩序としてはフェルミオンの質量項に対応する「部分格子対称性の破れ」や吸着原子によって誘起される「Kekule歪み」を、自発的秩序としてはスピン自由度が影響する「スピン密度波(Neel反強磁性)」を扱う。格子ゲージ理論の枠組みだけではスピン自由度を厳密に扱うことができないので、ハミルトニアンに対する変分原理の手法を併用する。また、外部秩序としてドメイン・ウォール型、あるいは渦型の外場を導入した場合の自発的秩序の受ける影響についても議論する。
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