2012 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー超周辺衝突におけるクォーコニウム生成過程の研究
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10J08478
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀 泰斗 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 相対論的重イオン衝突実験 / クォークグルオンプラズマ / 相対論的流体フロー / カイラル磁気効果 / 多粒子方位角相関 / 局所電荷保存効果 / Directed flow vl / QCD局所パリティ破れ |
Research Abstract |
近年RHIC-STAR実験の重心系エネルギー200GeV金金衝突実験にて「多粒子方位角相関の電荷依存性」を測定することによって行われたカイラル磁気効果(以下CMε)の探索が非常に高い注目を浴びている。高温下ではグルオンの特異な配位が量子異常を通して局所的にパリティを破る可能性がある。さらに重イオン周辺衝突の際に生じる反応平面に垂直で非常に強い磁場との組み合わせにより、磁場の軸上に電流が流れる現象をCME予想と呼ぶ。 まず、鉛鉛衝突LHCエネルギー2.76TeVの実験であるLHC-ALICE実験においても同様の測定を行いCMEの衝突エネルギー依存性を調べた。結果は、RHICと同程度のCMEと解釈できる信号が観測された。しかし、そもそもこのような信号は「QGPがハドロン化する程度の温度に達した流体面上での局所電荷保存(以下LCC)」を仮定した効果で説明できることをモデル計算を通して示した。さらに、同様な一連の多粒子方位角相関の電荷依存性を測定することでこのLCC効果を詳細に調べることができることを、理論モデル計算を行いながら提案し論文(arXiv:1208.0603)を投稿した。また、ALICE実験においてこの測定を行い、LCC効果によってこれらの一連の相関量が系統的に説明できることを示した。 相対論的重イオン衝突の際に生成される粒子の方位角分布のフーリエ1次係数(vl)は、衝突によって生成されるQGP物質の粘性にはほとんどよらない量であると考えられている。vlは、たとえばQGPの状態方程式や原子核のカラーグラス凝縮モデルの検証、に役立つと思われる。2粒子方位角相関法によるvl測定では、系のグローバルな運動量保存則の効果が無視できないという問題点が挙げられていた。しかし、多粒子方位角相関法ではこの効果が抑制されることを半解析的な方法で示し、実際のLHC-ALICE実験における鉛鉛衝突実験のデータを解析し、流体的フローによるvlらしい信号を得ることに成功した。また、相対論的流体モデルを使って予想を行い、実際の実験データと比較し議論をしている最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
電荷依存型多粒子方位角相関という新しい観測量を提案し、局所電荷保存と相対論的流体理論に基づいたモデル計算とLHC-ALICE実験によるデータ解析を行い、両者に極めて良い一致を見出した。さらに従来カイラル磁気効果の発見と思われてきた実験結果が局所電荷保存の効果であることを見出した。また、電荷非依存型多粒子方位角相関の方法を用いてDirected flow v1と考えられる信号を測定できた。
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Strategy for Future Research Activity |
論文にする。また、局所電荷保存効果のミクロスコピックな議論に基づいた理論モデルを作る。局所電荷保存を考えることは流体描像から粒子描像への移行を真剣に取り組むことになると思われる。実験側からはRHIC加速器を用いた低いエネルギーでの重イオン衝突実験でも同様の解析を行い、衝突エネルギー依存性を議論する。
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Research Products
(6 results)