2011 Fiscal Year Annual Research Report
多重極限環境下NMR法を用いた強相関電子系の新奇な量子相の相転移の研究
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10J08690
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山内 一宏 東京大学, 物性研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 量子スピン系 / 高圧物性 / 5d遷移金属酸化物 / 核磁気共鳴 |
Research Abstract |
本研究では、低温、高磁場、高圧などの極限環境下で出現する新奇量子相の研究を進めることが課題である。二次元直交ダイマースピン系SrCu2(BO3)2の基底状態は、常圧、零磁場の下では非磁性シングレットダイマー状態であるが、高磁場下における磁化プラトー相、2.4GPaの高圧下における新奇磁気相が見出されている。本年度、我々はこのSrCu2(BO3)2の高圧下において見出された新奇磁気相をより詳細に理解するため、SPring-8において放射光を用いた粉末X線回折実験を行った。その結果、高圧化においても直方晶の体心格子より低対称な格子系になっていることはないことを明らかにした。 また、5d遷移金属酸化物は、3d遷移金属酸化物に比べ、d電子間のクーロン斥力の影響が小さいことから金属となることが期待される。しかし、一部のパイロクロア構造を持つ5d遷移金属酸化物では、絶縁体となるものが見出されており、電子相関とスピン軌道相互作用による新奇な絶縁体状態が期待されている。昨年度は、パイロクロア構造を有する5d遷移金属酸化物Cd20s207が、227Kにおける金属絶縁体転移伴いall-in/all-out磁気構造へと秩序化することを明らかにした。本年度は、この物質の臨界指数および磁気励起を明らかにし、all-in/all-out磁気構造の出現に必要とされるIsing異方性が非常に小さいことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、高圧下における核磁気共鳴実験および放射光を用いた高圧下粉末X線回折実験を行い、直交ダイマースピン系SrCu2(BO3)における圧力誘起磁気相に関して新たな知見が得られている。また、当初予定していなかった5d遷移金属酸化物Cd20s207に関する研究を行い、この系の金属絶縁体転移が時間反転対称性以外の対称性を破らない磁気秩序に起因するものであることを明らかにすることができた。これらはの結果は、本研究の目的である新奇量子相の探索がおおむね順調に進んでいることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、SrCu2(BO3)、2の単結晶を用いた高圧下核磁気共鳴を行い、圧力誘起磁気相の磁気秩序パターンを決定する。また、圧力を変えて測定することで、この物質の相図を完成させる。また、Cd20s207と同様にパイロクロア構造を有する5d遷移金属酸化物であるEu2Ir207、常圧、零磁場下に量子臨界点を持つβ-YbAIB4と、その類縁物質であるα-YbAIB4などの研究を行い、新奇量子相を探索する。また、そのための技術開発を行う。
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