Research Abstract |
本研究は,シロール誘導体である1,1-ジメチル-3,4-ジ(α-スチリル)シロール(1)を新規合成し,この光誘起電子移動反応でケイ素原子架橋テトラメチレンエタン(TME)型ラジカルカチオン2^<・+>とビラジカル2^<・・>を発生させ,これらの分光学的および理論的な評価を目的としている。 平成23年度において,申請書に記載した研究計画(以下の(1)~(3))を遂行すべく,研究を行った. (1)シロール誘導体1の新規合成 現在,基質1の前駆体である1,1-ジメチル-3,4-ビス(1-フェニル-1-ヒドロキシエチニル)シロールの合成にまで成功している.今後,ただちに脱水反応で1を合成する予定である, (2)TD-DFT計算を用いた過渡中間体(1^<・+>, 2^<・+>, ^12^<・・>, ^32^<・・>)の電子遷移の評価 過渡中間体のうち,一重項種の^12^<・・>と三重項種の^32^<・・>の時間依存密度汎関数理論(TD-DFT)計算を行いその分子軌道と電子遷移について知見を得た.その結果,^12^<・・>の電子遷移は673nmに,^32^<・・>のそれは450nmに算出され,互いに大きく異なることがわかった.このことは,^12^<・・>と^32^<・・>を同時に発生させた場合,それぞれの過渡吸収を容易に区別して観測できることを示している.また,閉殻種である母体シロールと同様に,開殻種であるシロール誘導体^12^<・・>のLUMO+1と^32^<・・>のLUMOおよびSOMOにも同様に,シロール環の2位と5位の間に軌道相互作用が発現するという興味深い知見も得た.これらの成果をまとめた学術論文をJ.Phys.Org.Chem.誌に招待論文として投稿し,査読の結果,わずかな修正を要求されたのみで受理され掲載された. (3)レーザーフラッシュフォトリシス(LFP)を用いた中間体(2^<・+>, ^12^<・・>, ^32^<・・>)の過渡吸収スペクトルの観測現在のところ,1の合成には至っていないため検討できていないが,1が合成された後,ただちにLFPを用いて中間体(2^<・+>, ^12^<・・>, ^32^<・・>)の過渡吸収スペクトルの観測を行う予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験に先立ち,シロール誘導体1から発生するテトラメチレンエタン型中間体2^<・+>および2^<・・>の理論的な考察を詳細に行い,その結果がJ.Phys.Org.Chem.誌に招待論文として掲載された.また,シロール誘導体1の合成にも後一段階のところまで成功しており,1を合成し次第,レーザーフラッシュフォトリシスを用いて中間体2^<・+>および2^<・・>を観測し,この結果について報告する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在の課題はシロール誘導体1の合成である.この化合物は末端オレフィン部分を持つが,一昨年度の研究でケトン誘導体を1の前駆体として六段階で合成したものの,これのオレフィン化が全く進行しなかった.そこで,昨年度はアルコール誘導体を1の前駆体として五段階で合成しており,脱水反応により1を合成する予定である.1を合成し次第,テトラメチレンエタン型中間体2^<・+>および2^<・・>を観測し,それらの電子状態,反応性について詳細に調べる予定である.
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