Research Abstract |
本研究の目的は,人間の言語理解における推論機構を計算機により実現し,談話分析へ応用することである。我々はこの目標に向けて,まずは文章に潜在する書き手の意図・信念(プラン)を推定する課題を設定し,研究を実施した。まず第一に,我々はプラン推定を「観測された事象を,それがなぜ起きたのか,世界知識(因果関係や,同義語の知識)を使って説明する推論」と考え,仮説推論を用いたプラン推定モデルを考案した。仮説推論では,一般的には世界知識を用いて一つの観測に対し複数の説明を生成できるため,それらの候補の中から最良の説明を選択する。したがって,世界知識の存在は大変重要であり,そもそも最良な説明が候補として生成できなければ,最適な説明を返すことができない。そこで我々は第二に,領域にほとんど依存しない質問応答コミュニティの文章に対して,既存の世界知識のデータベースが,その文章の書き手のプランに関する説明を生成できるほど十分な規模であるかを実験により確認した。その結果,説明候補の生成は十分に行なうことができ,以後は,どのようにして最良の説明を選ぶかという「説明選択」の問題に注力できることがわかった。ここまでの2つの成果は,後述する学会で発表を行なった。しかしながら,説明選択の問題は計算コストが大きく,実行方法を工夫する必要があることも同時に明らかになった。そこで第三に,我々は仮説推論の問題を整数線形計画問題に変換し,効率的に合理的な説明を求める手法を考案した。手法の評価実験結果からは,対象となる問題の規模がある程度大きくても,効率的に最適解を求められることがわかった。現在はこの成果を国際会議で発表するため,論文を執筆中である。次年度の計画としては,仮説推論を現実的な時間で実行できる準備が整ったため,大規模な世界知識を利用して,実際に意図推定を行うモデルの構築に焦点を当てて研究を進めていく予定である。
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