2011 Fiscal Year Annual Research Report
オデュッセイア的自己性の倫理学 : ジャンケレヴィッチ形而上学の実践的展開
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10J10213
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
三河 隆之 明治大学, 文学部, 特別研究員PD
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Keywords | ジャンケレヴィッチ / 倫理 / 具体的なもの / 物語論 / ヴァール / マルセル / 出隆 |
Research Abstract |
研究課題の二年度めとなった本年度は、ひきつづきジャンケレヴィッチの思想にかんする基礎的な再検討の作業を進めるとともに、その実践的展開の方途を見出すべく方法論的な模索にも努めた。まず前者については、これまでの一次文献読解の蓄積を、二次文献やその他の文献との照合を通じて精錬させてゆくことが中心的な作業となった。とりわけ今年度はフィロネンコによる大部かつ包括的な研究書が刊行されたことで、ジャンケレヴィッチ研究が新局面に差しかかっており、本研究としてもこうした状況への対応を迫られることとなった。つぎに後者については、オデュッセイアを一種の範例と目し、またカイロス的時間性を重視しつづけたジャンケレヴィッチに鑑み、近年さかんに論じられてきた物語(り)論との照応関係に着目した考察を行なった。そのさい、たえず還元不可能な具体的事例への視座を保持するという志向をもつジャンケレヴィッチ的思考の特徴も加味しつつ、マルセルやヴァールといった前世代の論者が追究した「具体的なもの」との関連性も意識した(この観点は上述のフィロネンコ書の副題「具体的倫理学の体系」とも符合するものである)。この点について本年度は萌芽的な研究発表を行なっているが、来年度はこれをさらに展開させてゆくこととなる。なお、前年度から継続して、本研究課題に相対的観点を導入する目的から、ジャンケレヴィッチと同時代に、かれと同様ソクラテス的道徳実践の考察に注力した日本の哲学者である出隆の思索についての研究も行なった。とりわけ今年度は、思索の内実と社会実践との関連という、ジャンケレヴィッチ倫理思想を考えるうえでも根本的な問題点をめぐって考察し、論文へと結実することができた。この取り組みは来年度も継続される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が大枠として設定した、ジャンケレヴィッチ思想の再検討と、それを通じた実践的射程の模索という二つの目的について、本年度までに一定程度の考察を進めることができており、来年度いっぱいで取りまとめの段階にまで到達する見通しは得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題としての最終年度にあたる次年度は、前二年間で行なってきた文献の蒐集やその読解といった作業の継続はもとより、得られた知見をとりまとめ、積極的に研究論文や学会発表などのかたちで提示することに注力していくこととなる。くわえて、文献の枠を超えて映像作品等にみられる倫理(学)的契機に関する考察も積極的に推し進めてゆくことで、本研究の標題に掲げた「ジャンケレヴィッチ形而上学の実践的展開」の多面的実現を期する。
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