2011 Fiscal Year Annual Research Report
キリスト教と植民地主義に関する文化人類学的研究―東アジアの事例から
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10J10245
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
藤野 陽平 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 植民地主義 / 東アジア / キリスト教 / 宗教と政治 / 東アジア / 台湾 / 台湾における日本語 / 移動と宗教 |
Research Abstract |
本年は3年計画の2年目であるので、フィールドワークを通じた資料収集に重点を置いた。以下、フィールドワークの概要を記す。(なお、フィールドワークの日程は大阪7/29-7/31、長崎8/6-8/11、台湾9/7-9/20、10/30-11/8、2/21-3/17である。) 台湾では日本語を話すキリスト教徒へのインタビューを実施した。台湾には戦前の教育のため日本語リテラシーの高い高齢者が多く、彼らを対象としたキリスト教関係のコミュニティが存在する。こうした集まりに参加する人の中には言語とアイデンティティの不一致を抱える人が大多数で、その日本語への欲求を満たすかのように集まっている。また、戦前戦後の混乱期に自らの意図とは関わりなく、台湾に滞在し続けなくてはならなかった日本人の女性もこうした集まりに参加している。彼らへのインタビューを通じて東アジアの戦前戦後史における植民地経験とキリスト教信仰の関係性に迫った。 訪問先としては1台湾基督長老教会国際日語教会と2社團法人台北市松年福祉會玉蘭荘を中心とした。1は台北市内における日本語礼拝で2は台北市内に位置する日本語によるデイケアセンターである。こうした場において参与観察やインタビューを通じてライフヒストリーの収集を行った。 台湾以外には大阪と長崎で調査を実施した。大阪では真イエス教会大阪教会で参与観察を実施した。真イエス教会は中国で成立し、台湾で発展したのだが、その教派が韓国に伝わる際に、植民地期の日本の大阪教会が介在した。当時日本で暮らしていた在日朝鮮人が当教会でキリスト教徒となり、戦後韓国に持ち帰ったのである。 長崎では県内のキリスト教関連施設の調査を実施した。長崎は重層的な植民地主義に関連した歴史的経験をもつ場であり、こうした場におけるキリスト教理解は東アジアのキリスト教と植民地主義を考える上で核となる地域である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年計画の研究で、初年度は理論研究と問題提起を中心に実施したが、2年目に当たる本年度はフィールドワークを中心とした資料収集を行った。最終年度の3年目以降に実施する口頭発表や論文、著書の発表にむけて十分な資料を入手することができた。また、フィールドワーク中には当初の予定よりも多岐にわたる情報を入手することができ、今後の研究にもつなぐことが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では東アジアを対象としているがやや情報が台湾に偏りがちである。より広い視野から課題の推進が求められる本研究では、最終年度には韓国、日本の情報収集にも力を入れたい。研究計画当初には思いもよらなかったことであるが、東日本大震災と福島の原発事故によって、被爆地でありキリスト教徒の多い長崎の重要性が高まった。当初の研究計画に長崎を入れることは含まれていなかったが、本課題をより進展させるために本年度は長崎および北九州地域の調査も実施したい。また、来年度は最終年度であるので、口頭発表を通じて多くの研究者と意見交換を通じた後に、これまでの研究成果をふまえて活字化して発表したい。
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