2011 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレート磁性体における新奇基底状態の解明―スピン液体と磁化ステップ現象―
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10J10454
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
吉田 紘行 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 特別研究員(PD)
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Keywords | カゴメ格子反強磁性体 / volborthite / 単結晶 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、幾何学的フラストレーションの影響が顕著に現れるカゴメ格子反強磁性体の磁性を明らかにする事を目的とし、そのモデル物質にvolborthite、Cu_3V_2O_8(OH)_2・2H_2Oを取り上げその特異な基底状態の解明を試みた。昨年度からvolborthiteの単結晶を育成することに成功していたため、本年度では特に、単結晶を用いた精密な物性測定を行った。その中で2つの大きな成果を得る事が出来た。一つは、単結晶を用いた磁化測定及び、構造解析から室温付近(310K)において、磁性を担うCuの3d軌道がd_<z2>、2軌道からd_<x2-y2>軌道へと変化する軌道スイッチと呼ぶべき現象を発見することに成功した。これは過去に例のない初めての現象であることに加え、軌道状態の変化が磁性に影響を与える事も明らかとなっており、非常に重要な発見である。また、比熱測定を行うことで、1K付近においてこれで明確にされていなかった磁気相転移が逐次的に生じる事が明らかとなった。カゴメ格子反強磁性体においてこのような逐次相転移が観測された例は無いため、この転移を解明することはカゴメの物理において極めて重要である。一方、昨年度の目的には他のカゴメ格子反強磁性体を探索しその物性を調べる事も目的としていた。その過程で、新しいS=1/2カゴメ格子反強磁性体β-vesignieite,BaCu_3V_2O_8(OH)_2を発見した。本物質は歪みも乱れもない理想的なS=1/2カゴメ格子反強磁性体であるが、磁性測定から9Kで磁気秩序を示す事を明らかにし、この秩序化にはDM相互作用が重要な役割を果たしている可能性を見出した。その他にも、β-vesignieiteのCuイオンをNiイオンに置換した試料を開発し、より多くのモデル物質の磁性を調べる事から、「カゴメ格子反強磁性体の磁性についての知見を得る事が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに最も困難と考えられていたvolborthiteの単結晶育成に成功した事が、研究を推し進める駆動力となった。それにより、これまでに知られていなかった現象が発見され、たくさんの成果を生むことに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
volborthiteの単結晶を合成することは出来たが、完全な単一ドメインでの結晶を得ることにはまだ成功していない。単一ドメインの結晶を得ることにより、磁性の異方性を得る事が出来ると考えられる。それによって、フラストレーションを有するカゴメ格子反強磁性体の磁性をより深く理解できる事になると考えられる。
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Research Products
(7 results)