2011 Fiscal Year Annual Research Report
血管新生シグナルによる腫瘍増殖および悪性化の抑制に関わるメカニズムの解析
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10J40024
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
土田 里香 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | Bone Morphogenetic Protein 4(BMP4) / 腫瘍血管新生 / 固形腫瘍 / 癌微小環境 / 血管内皮細胞 |
Research Abstract |
日本人の死因第1位は癌であり3人に1人が癌で亡くなっている。そのため、適切な癌治療により国民の生活の質を向上させることは公衆衛生医学上の重要な課題である。癌細胞を死滅させるための多数の抗癌剤が開発されているにもかかわらず、未だに、再発がなく副作用の少ない治療法は確立していない。私どもの研究室ではこれまでBone Morphogenetic Protein 4 (BMP4;骨形成タンパク質4)というタンパク質が、in vivoで血管新生を阻害することを報告してきた。BMP4は生物が発生する極初期に神経堤に発現する重要な因子であり、BMP4を欠失したマウスは胎生致死に至ることが知られている。本研究では、癌の増殖、転移など悪性化の起点となる腫瘍の血管新生をBMP4が阻害するのではないかと考え、その効果および機能を解析してきた。具体的には、マウスに固形腫瘍を移植し、BMP4を腹腔内に投与する動物実験により、固形癌(子宮頸癌、肺癌、悪性黒色腫)が増殖していく過程でBMP4が腫瘍血管新生を阻害し、その結果、腫瘍抑制効果をもたらすことを見出した。既存の血管(脳、肺を含む)には出血等の副作用は認められなかった。その作用機序として、BMP4の投与により、血管内皮細胞を細胞死に導くことが知られているTSP1の発現が微小環境内で非常に高まり、腫瘍血管の新生を有意に阻害することを見出した。BMP4の癌細胞自体に対する効果は、癌細胞の増殖を促進するという報告と、抑制するという報告がなされており決着をみていない。しかしその多くはBMP4の癌細胞に対する効果のみを判定しており、本研究のように、BMP4が癌の微小環境を制御し、腫瘍血管の新生を阻害することによって、最終的に腫瘍の抑制効果をもたらすことは、今回初めて証明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年3月11日に発生した東日本大震災およびそれに伴う原発事故があり、九州に避難する(茨城県在住)等、4月末まで仕事が物理的にできない状況があった。更に、研究グループを主宰していた澁谷正史氏(東大名誉教授・東京医科歯科大学非常勤講師)の研究室で実験を行っていたが、平成24年1月に研究室を閉鎖したため、一時的に研究の場を失ったことにより、長期継続的な観察を必要とする動物実験が一部行えなかったが、それでも成果を平成23年10月の日本癌学会総会で研究成果を発表することができ、おおむね順調であると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までは海外での特許申請(ドイツ・バイエル社)が継続され、実験内容が制限されていたが、平成23年12月末に申請の更新を取りやめた。そのため平成24年度は、主に制限されていた動物実験が可能になる。また、韓国、中国との癌研究共同プロジェクトに参加することになり、ヒトの手術検体から採取された胃癌細胞を用いて、本研究を発展させることが可能になった。これまでは主に樹立された癌の培養細胞をマウスに移植することでBMP4の腫瘍抑制効果を検討してきたが、今年度は具体的な臨床応用を視野に、BMP4のヒト原発胃癌への効果を検討し、その作用機序の更なる解析を進めながら、本研究を推進していく予定である。
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