2011 Fiscal Year Annual Research Report
ブナ科植物とそれに付く植食性昆虫の遺伝構造比較による照葉樹林の分布変遷の解明
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10J40030
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
瀬尾 京子 (青木 京子) 京都大学, 地球環境学堂, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 植物地理 / 照葉樹林 / レフュジア / 植食性昆虫 / 種内の遺伝的変異 |
Research Abstract |
本研究の目的は,日本周辺の照葉樹林の中でも異なる分布変遷を経てきたと考えられるシイ林とカシ林の優占樹種およびそれに種特異的に寄生する複数の植食性昆虫に注目し,植物と昆虫両者を含めた系としてのシイ林およびカシ林の分布変遷の比較・解明を目標とする。 平成23年度に行った研究および得られた成果は以下である。 1.シイに付く植食性昆虫類における種内のmtDNA多型の解析 シイの新葉に潜葉するヒラセノミゾウムシについて,これまでシイとその種子食昆虫シイシギゾウムシを解析したのと同じ日本の20地点でそれぞれ約16個体を採集し,mtDNA (CO1, CO2, ND5)の約2300塩基の配列を解析した。集団間のハプロタイプ頻度の比較から遺伝距離を計算しデンドログラムを作成した。シイとシイシギゾウムシと同様,シイとヒラセノミゾウムシについても,それぞれの種内の集団間の分化パターンがほぼ一致することが示された。本結果により,シイ林に生活する種群が共通した分布変遷を経てきたことが強く示唆された。 2.シイ・カシに付く植食性昆虫類における種内のmtDNA多型の解析 ツヤコガ,モグリチビガ,ホソガは潜葉性昆虫であり,新葉の葉柄へ産卵すると同時に葉を落葉させる。4~6月に地面に落ちている新葉に潜葉している昆虫を日本の数地点で採集した。ツヤコガについては,mtDNA(CO1)の配列を389塩基について解析した結果,シイ類(スダジイ,オキナワジイ)に潜葉するものとカシ類(アラカシ,シラカシ,ウラジロガシ)に潜葉するものは遺伝的にはっきりと分化していることがわかり,これらはおそらく別種であると予想される。 また,シイ類に潜葉するツヤコガ内には太平洋岸に分布するタイプと日本海岸に分布するタイプの間に地理的分化もみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
シイの堅果を食害するシイシギゾウムシ,および新葉に潜るヒラセノミゾウムシのミトコンドリアDNAの遺伝構造を寄主植物シイのEST-SSR多型の解析結果と比較することができた。その結果,シイに種特異的に寄生し,移動性も少ないと考えられる複数の植食性昆虫間で遺伝的変異パターンの共通性が発見できた。ある植生帯に属する植物とそれと密接に関係して生活している昆虫間で遺伝的変異パターンを比較した研究例はこれまでにほとんどみられない。興味深い結果であり,学術的にインパクトのある論文になると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
シイ・カシに付く植食性昆虫の中には,シイに種特異的なもの,カシの種それぞれに種特異的なもの,またシイとカシ両方に付くもの等,様々なものがいる。これらシイ林とカシ林の優占樹種につく植食性昆虫の多様性を明らかにしつつ,いくつかの代表種で遺伝的変異パターンの共通性および相違点をみることによって,照葉樹林全体の過去の気候変動の影響および分布変遷をより詳しく推定できると考える。
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Research Products
(8 results)