2011 Fiscal Year Annual Research Report
解剖生理学と行動学を併用した害虫消化管内に寄生するヤドリバエの環境適応機構の解明
Project/Area Number |
10J40049
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
田端 良子 (一木 良子) 独立行政法人国際農林水産業研究センター, 生産環境・畜産領域, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 捕食寄生性昆虫 / ヤドリバエ / 中腸 / 内部寄生 / 害虫防除 / 天敵 |
Research Abstract |
ヤドリバエ類は農業害虫(チョウ目幼虫)の体内に寄生して成長する捕食寄生性天敵であり、有望な生物的防除資材としてその効果が期待されている。内部寄生性昆虫の大半が寄主の消化管と表皮の間隙(体腔)に寄生するのに対し、ノコギリハリバエの幼虫は寄主昆虫の消化管(中腸)内に寄生するというユニークな生態をもつ。体腔には生体防御を担う原白血球や顆粒細胞等多数の血球細胞が存在するため、これらを回避するために中腸という特殊かつ極限的な環境に適応したものと考えられる。しかし一方で、チョウ目幼虫の中腸内は強アルカリ性に保たれ、消化酵素に常に晒されることになる。ハエ幼虫が中腸でなぜ消化されずに生存できるのか、その戦略機構は全く分かっていない。本研究では、ノコギリハリバエが中腸という特殊な環境にどのように適応しているのか、その生理学的・行動学的メカニズムについて解明する。初年度である本年度は、寄主となる害虫(アワヨトウ)の摂取する食物が中腸に寄生するノコギリハリバエ幼虫の発育に与える影響を調査した。具体的には、5齢眠まで人工飼料で育てたアワヨトウ幼虫にハエの雌成虫を与えて産卵・寄生させ、その後4種の異なる食草で飼育し、ハエのパフォーマンス(生存率、発育日数、体サイズ、性比等)を比較した。この結果、食草の違いによりハエのパフォーマンスは有意に異なり、ノコギリハリバエの発育が害虫の摂取する食草の影響を受けやすいことが分かった。また、ノコギリハリバエの発育に関わる因子の特定や、消化酵素およびpHに対するハエ幼虫の耐性試験を効率的に行うために、ハエ幼虫を寄主に寄生させるととなくin vitroで飼育する人工培地飼育法の確立を試みた。人工培地内でハエ幼虫が蛹化するまでには至らなかったが、一定時間(数週間)ハエ幼虫を飼育することに成功した。本年度はこの他に、アワヨトウの中腸で活性をもつ消化酵素のスクリーニングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
害虫の食べる餌が中腸に寄生するノコギリハリバエの発育に影響を及ぼすことをデータで示すとともに、アワヨトウの中腸で活性をもつ消化酵素の一部を明らかとした。消化酵素や強アルカリへのノコギリハリバエ幼虫の耐性試験を行うための人工培地飼育法の確立に取り組み、一定の成果を残すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度確立したノコギリハリバエ幼虫をin vitroで一定時間飼育できるシステムを使用し、pH変化および消化酵素に対するハエ幼虫の耐性試験を実施し、ハエ幼虫の発育に関わる因子を特定する。さらに、嫌気的な中腸での酸素獲得手段として、ノコギリハリバエ幼虫は寄主の気管を中腸内に取り込み、シュノーケルのようにして呼吸することがこれまでの研究で分かっている。ハエ幼虫が気管の場所を感知し中腸に取り込むメカニズムについて、行動生理学的手法を用いて明らかにする。
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Research Products
(2 results)