2011 Fiscal Year Annual Research Report
気候変動下における森林の炭素固定量予測―年輪情報を用いた長期変動モデルの構築―
Project/Area Number |
10J40073
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
鍋嶋 絵里 東京農工大学, 連合農学研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 年輪 / 解剖学的特性 / 炭素固定量 / 肥大成長 / 孔圏道管 / 水分通道 / 気候変動 / 温暖化 |
Research Abstract |
本研究の目的は樹木の年輪情報を用いた森林の炭素固定量の予測モデルの構築である。これまでに北海道、東京、千葉、愛媛の4カ所において、成長錐を用いた年輪試料の採取を行った。日本の主要樹種の一つであり、申請者の研究成果から成長特性などが明らかになっているミズナラについて、軟X線写真の画像解析により年輪幅の測定を行ったほか、肥大成長の生理メカニズムの一つとして、水輸送機能に関連の深い木部の解剖学的特性(成長初期に形成される径の大きい道管である孔圏道管の数や面積など)を明らかにするため、スキャナを用いた画像解析を行った。 スキャナによる木部の解剖学的特性の測定は、従来の光学顕微鏡画像を用いた方法よりも短時間で多くの測定を行うことができるが、まだ十分に測定法が確立されていない。そこで、従来の方法との比較により、スキャナでの測定手法を確立させた上で測定を行った。 ミズナラの調査地である北海道大学苫小牧研究林では、温暖化の影響によって1970年以降の平均気温の上昇および降水量の減少が明らかとなっている。一方、1970年以降の上記の測定値について解析を行ったところ、以下の結果が得られた。(1)ミズナラの年輪幅は、1980年代より増加する傾向にある。(2)各年の孔圏道管の数や合計面積は1970年以降増加傾向にあり、先行研究によって春の気温上昇が要因であることが示唆された(Begum et al. 2007, 2008)。(3)年輪幅は孔圏道管の合計面積の増加によって増加することが示唆された。これらのことから、温暖化による気温上昇の影響が幹の肥大成長量の増加にあらわれていること、また、このメカニズムの一つとして木部の解剖学的特性の変化が効いている可能性が示唆された。これらの結果は、気候変動に対する樹木および森林の成長応答をモデル化し、長期予測を行う上で重要であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目的の一つである樹木の肥大成長の長期変動パターンを検出することができた。また、このメカニズムの一つとして温暖化などの気候変動に伴う木部の解剖学的特性の長期変動を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は樹木の肥大成長の生理メカニズムを明らかにし、気候変動下における樹木の肥大成長をモデリングする。まず、年輪の同位体分析によって光合成機能の変動を明らかにし、光合成生産や貯蔵養分を介した気候要因の肥大成長への影響を明らかにする。次に、これまでに明らかにした肥大成長と解剖学的特性の変動、今後明らかにする生理特性の変動とを合わせ、気候変動による肥大成長の短期・長期変動パターンをモデリングする。
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