2011 Fiscal Year Annual Research Report
医療デバイスに対する力学的・生物学的応答評価を可能とする血管バイオモデルの構築
Project/Area Number |
10J40210
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
冨田 典子 東北大学, 流体科学研究所, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 循環器系疾患 / 医療デバイス評価 / オーダーメイド医療 / 血球モデル / 膜強度変化 / 膜孔形成タンパク質 / 構造解析 / 膜孔クラスター |
Research Abstract |
循環器系疾患は、多くの国において最も死亡者数の高い重大な疾患であり、画期的な治療法の開発が必要とされており、カテーテルやステントを用いた血管内治療の導入が増加している。一方、デバイスの接触、留置による血管細胞の傷害、溶血や血球の凝集、血栓による血管の閉塞が問題となっている。本研究においては、医療デバイスの評価システム構築およびオーダーメード型治療の開発に貢献するために、血管および血球の力学的・生物学的特性を有するバイオモデルの開発をめざしている。本年度は血球モデル開発に重点をあて、特に、血管疾患・血液疾患患者を想定した多様な膜強度を持つ血球モデルの開発を目指した研究をおこなった。赤血球膜に特異的に作用して、膜の物性を硬化・脆弱化させることが可能な膜孔タンパク質に着目し、詳細な構造解析を行い、構造の特性を利用した赤血球膜への作用機構について解析した。 その結果、本膜孔タンパク質のサブユニットは、赤血球膜上で7量体を形成するが、7個のサブユニットは正七角形から若干のずれを伴って配置されていることが明らかとなった。この構造の特徴に伴い、赤血球膜上で膜孔集合体(クラスター)を形成すること、膜孔が単独で存在するときは細胞崩壊活性の増加は抑制されているが、クラスターを形成した場合に崩壊活性が促進されることを明らかとした。一方、本タンパク質を界面活性剤上で結晶化することに成功し、界面活性剤上では8量体を形成することが明らかとなった。これらの結果から、(1)膜孔タンパク質の濃度調節により、孔を形成するが膜を崩壊させず、膜強度を変化させることが可能であること、(2)本タンパク質を作用させる基盤(膜)の構造を変化させることにより、多様な構造を有する膜孔を形成できる可能性が示唆された。今後は膜孔タンパク質の反応性の制御と、膜構造の制御により、膜強度多様化血球モデルの開発を進めていく予定である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、膜強度多様化血球モデルの開発を目指し、血球膜に特異的に作用する膜孔タンパク質の構造と作用メカニズムに関する研究をおこなった。本年度に得られた結果から、本タンパク質の濃度を調整すること、また、膜の素材を変化させることにより、膜強度を多様化したモデルの開発が可能であることが示唆され、今後の開発の方向性を明らかにすることができたといえる。昨年度におこなった血管モデル開発と合わせ、本研究目的はおおむね順調に進展しているといえる
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)膜孔タンパク質の濃度調整および(2)膜組成の変化、の2点に着目し、研究をおこなう。赤血球の簡易モデルとして、脂質二重膜からなるリポソームを使用し、リポソームを構成する脂質の種類を変化させる。様々な種類のリポソームに膜孔タンパク質を作用させ、膜孔が単独で存在する条件、および、クラスターを形成し、膜が破壊される条件を検討する。膜の破壊は透過型電子顕微鏡で確認する。膜が破壊しない条件で膜孔が形成されたリポソームの膜強度をマイクロピペットで解析する。現在使用中の膜孔タンパク質が脂質のみから成るリポソームに作用しにくい場合には、膜孔タンパク質の種類を変える。本研究員は現在、アメリカ・シラキュース大学で、様々な脂質膜に対する複数の膜孔タンパク質の膜孔形成能と、膜孔の性質を検討する実験をおこなっており、本研究成果を血球モデル開発法に応用したいと考えている。
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